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夜明けの星 8-23(夏樹)
夏樹が泣いて以来、雪夜はまた夏樹にべったりになった。
相変わらず朝起きると口唇は狙ってくるものの、以前ほどしつこくはないし、失敗してもそんなに気にしているようには見えない。
たまに夏樹が軽くキスをするとそれで満足をしているので、もう何だか雪夜が夏樹を襲うのは朝の挨拶替わりになっている気がする。
っていうか、雪夜さん……もしかして当初の目的忘れてる?
いや、忘れているならいいんだけどね?
そのまま……俺の嫌な予感も杞憂に終わればいい……
***
ん?起きたかな?
腕の中で雪夜が動く気配に目を覚ました。
薄目を開けて時計を見ると、まだ雪夜が起きる時間よりは早い。
少しうなされていたようには思ったけど……イヤな夢でも見たのかな……?
全然うなされない日というのはほとんどない。
ハッキリとうわ言を言ったり、叫び声を上げたりしなくても、静かにうなされている時もある。
静かにうなされる時は、目を覚ますと内容は忘れてしまうようで、軽く抱きしめてあやしてやればすぐにまた眠ってしまう。
今も軽く抱きしめたまま目を閉じて雪夜の様子を窺っていた。
「……つきさん……」
ギュっと抱きついて来た雪夜が、何かボソリと呟いた。
その後、器用に夏樹の腕からすり抜けると、ベッドからそっとおりた。
夏樹は一瞬ゾッとした。
何だ今の!?ほとんど気配がしなかった……
ほんの一瞬前まで腕の中にあった温もりが、急に煙になって消えてしまったような感覚だった。
考えてみれば……雪夜が抜けだしたことに気付かない日が今まで何度もあった。
普段からショートスリーパーで気配に敏感な夏樹が、雪夜がベッドを抜け出したことに気付かないということがおかしい。
いくら疲れていたといってもこれだけすぐ隣にいて気付かないのは、雪夜に気を許しているせいかと思っていた。
だが……
「雪っ……!」
慌てて起き上がると雪夜の姿はもうなかった。
雪夜が抜け出してから、夏樹が起き上がるまでたったの数秒だ。
一瞬、本当に消えてしまったのかと錯覚しそうになる。
いやいや、それはないっ!!
寝室から飛び出すと、夏樹は他の場所を確かめることもなくテラスへと急いだ。
テラス にいる……
なんとなく直感でそう思ったからだ。
廊下に出ると、案の定アラームが鳴った。
やっぱり!
テラスに出ると、雪夜が真ん中に立ってブルーモーメントの空を眺めていた。
***
「雪夜……」
雪夜がテラス に来たのは、満月の夜以来だ。
何があるんだろう……?
どうしてここに来るんだ?
「雪夜?」
夏樹の声に、無表情のまま雪夜が振り向いた。
「なつきさん……」
「どうしたの?……まだ起きるには早いよ?」
「……ほしが……」
「ん?」
「……星が見えるかなって思ったんですけど、ちょっと遅かったみたいです」
雪夜……?
「夏樹さんに見せてもらった星空が……キレイだったから……」
そう言って雪夜がまた空を見上げた。
ちょっと待って……それって……あの日のこと?
「でも、この空もキレイですよね」
空に向かって両手を伸ばしていた雪夜がちょっとよろめく。
「あ……れ?」
「雪夜っ!!」
デジャヴ……
確か前回もここで雪夜を受け止めるためにスライディングした気がする……
「はい、セーフ……」
「ん……わっ!?なななな夏樹さんっ!?ちょ、大丈夫ですかっ!?すみません、潰しちゃって!」
夏樹の身体から急いで下りようとする雪夜を抱きしめた。
「……夏樹さん?」
「うん……綺麗だよね……」
「夏樹さん?どうしたんですか?」
夏樹を見下ろす雪夜の顔越しに空を眺めて、雪夜に視線を戻した。
「おはよう雪夜」
「……え?あ、はい……おはようございます……?」
「雪夜、キスしたい」
「え……ええっ!?」
真っ赤になって口元を手で隠そうとする雪夜に、思わず苦笑する。
「ん~、この手は邪魔だね」
「っぁ……!」
いろいろと気になることはある。
が、まずは……
夏樹はくるりと体勢を変えて雪夜を押し倒すと、数年ぶりに逢う恋人との口付けを思う存分楽しんだ。
***
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