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夜明けの星 8-29(夏樹)
「また姉 の夢を見たのか」
「そうみたいですね……」
夏樹は雪夜を抱きしめたまま斎を見た。
身体が熱い……さっきのでまた熱が上がったのかな……
夏樹が雪夜を抱っこしている間に、斎が氷枕や下に敷いていた汗取り用のバスタオルを取り換えてくれた。
頭を冷やすのは熱を下げるためというより、雪夜の頭痛を軽減するためだ。
そもそも、膨大な記憶を処理しきれなくてこの数年間子どもの状態になっていた可能性が高いわけだし……だとすれば、今の雪夜の頭の中は常にオーバーヒート状態だ。
「ぅ~……」
「ん?どした?頭痛い?吐きそう?」
「わかんなぃ……」
雪夜が唸りながら夏樹の肩に顔を埋めた。
「冷却シート貼ろうか?」
「……ぁぃ……」
雪夜の額に冷却シートを貼ると「つめた~い」と少し笑った。
「気持ちいい?」
「……きもちい……」
「そかそか。良かった」
具合が悪い時や吐き気が酷い時はほとんど会話にならない。
今日は少しでも笑えているし、会話が出来ているのでマシな方だ。
夏樹はホッとしながら抱きついて来た雪夜の背中をトントンと撫でた。
「なつきさ……ごめ……さぃ」
「ん?」
「……」
「……雪夜?」
「雪ちゃんもう寝てるぞ」
ベッドを整えてくれていた斎が雪夜の頭を撫でた。
「え、寝てます?……そっか……次はもう少し長く寝られるといいけど……」
雪夜は眠ってもすぐにうなされるので、睡眠は全然足りていない。
酷い時は1時間も眠れずに叫んで目を覚ます。
そんな雪夜にずっと付き添っているとさすがに夏樹の体力ももたないので、昼間は斎たちに雪夜を任せて、ちゃんと睡眠を取るようにしている。
「しばらくナツが抱いてろ。その方が雪ちゃんも安心するだろうからな」
「……ですかね?」
「ついでにナツもそのまま一緒に寝とけ」
「は~い」
夏樹は雪夜を抱きしめたままベッドに横になった。
俺で安心できる……?
今の雪夜は夏樹に気を使い過ぎる。
大学生の頃の雪夜はこれがデフォだ。
それはわかっているが、少し前まで夏樹にべったりだったので、どうしても感情が追いつかない。
今は、頭痛や吐き気が酷くなってどうしようもなくなると、遠慮がちに夏樹に抱きついてくる。
雪夜から来てくれれば夏樹としては嬉しい限りなのだが、雪夜は申し訳なさそうにしょっちゅう謝ってくる。
なんで謝るの?
何に謝ってるの……?
謝って欲しいわけじゃない。
謝らせたいわけじゃない。
もっと甘えて、ワガママを言っていいのに……
もっと頼ってくれていいのに……
だいたい、謝るのは……謝らなきゃいけないのは……俺の方なんだよ……?
何もしてあげられなくてごめん。
苦しい思いさせてごめん。
辛い思いさせてごめん。
察しが悪くてごめん。
頼りなくてごめん――
支えてあげたいと思っても、雪夜が寄りかかってくれないとどうにもならない。
やるせない思いで押しつぶされる――……
***
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