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夜明けの星 8-34(夏樹)

「雪夜……眠たくなるとまだ子ども雪夜が出て来るんだな。まぁ、前から眠くなるとちょっと甘えたになってたけど……」  雪夜が寝たのを確認して、佐々木が呟いた。 「ん?あぁ、まぁ……え、子ども?出てたか?」  夏樹は思わず佐々木を二度見した。 「いやいや、めっちゃ出てただろ!?『』になってたし。さっきは、普通に話してたのに急に……ほら、座ったまま寝そうになった時みたいにカクッて倒れそうになって、顔あげたらもう今にも寝そうな顔になってて、んで『なちゅしゃんいく』って言い出して……もしかしてその瞬間に子ども雪夜に切り替わったのかなって……」 「え?そうなのか?」 「あれ?いつもはならないのか?」 「さあ……いや、俺が覚えてる限りではない……と思うけど……そもそも今の状態に戻ってから体調崩しっぱなしで、吐き気も酷いからあんまり話せてないしな。寝てることの方が多いくらいだったし……」  実際、雪夜が今の状態に戻ってから、これだけ長時間起きていられたのは初めてだと思う。  それに俺に向かって「なちゅしゃんいく」とは言わないし……  ん?いや、違うな……何言ってんだ俺……? 「雪夜が『なちゅしゃん』って言ったのか?」 「だからそう言ってるだろ!?」  雪夜が夏樹のことを「」と呼んでいたのは、子ども雪夜になっていた時、言葉を覚える過程で「なつきさん」がうまく言えなかったせいだ。  だから、今の状態に戻ってからはずっとちゃんと「夏樹さん」と呼んでくれていた……と思う。  そうか、だから佐々木は子ども雪夜になってるって言ったのか。  うわ~!雪夜に「なちゅしゃん」って呼ばれるの久々かも!ちょっと後で映像見直そう!!  って、喜んでどうする!!  そうじゃなくて……せっかく佐々木たちが来てくれて楽しそうにしていたのに子ども雪夜が出て来たのはどういうことだ?  ただ眠いだけなら別にいいんだけど……  次に目が覚めたら、また子ども雪夜に戻ってる可能性もあるかもしれないな…… 「ごめん、雪夜に負担かけ過ぎた……かな?」  夏樹が真剣に考え込んだのを見て、佐々木と相川がしょんぼりと項垂れた。 「え?あぁ、いや、雪夜も楽しそうだったし、お前らに会えて嬉しくてちょっとはしゃぎ過ぎただけだよ。気にするな」  夏樹は慌てて二人の頭をガシガシ撫でて笑いかけた。   「体力が落ちてるから疲れやすいだけで、精神的にはそんなに負担かかってないはずだから大丈夫だ」  もちろん、大号泣したということはそれなりにショックも受けただろうし精神的に負担もかかっているとは思うが……でも発熱や嘔吐がなかったということは、やっぱり佐々木たちといることで雪夜が精神的に落ち着いていたということだと思う。   「それに、斎さんも、まだしばらくは子どもの状態と行ったり来たりする可能性が高いとは言ってたしな」 「そうなんだ……?」  むしろ、雪夜が元に戻ってからのこの約一ヶ月の間、混乱してこれだけ体調を崩しているのに精神が退行していないことの方が不思議なくらいなのだ。   「ぉっと……」  すっかり眠り込んだらしく、夏樹の首に回されていた雪夜の腕が落ちた。  雪夜がずり落ちて来たのでベッドに寝かせて目元を冷やす。  疲れ具合からみて、たぶん起きるのは夜……か明日の朝かな。  まぁ、途中で目を覚ますとは思うけど…… 「夏樹さん、ちょっといい?」  佐々木が、夏樹に目配せをしてきた。   「ん?あぁ……相川、すまんが少しだけ雪夜についててくれ」 「はいよ~」 「うなされたり様子がおかしかったらすぐに知らせろよ?」 「わかってるよ!」 「あ、うなされたら、目元のタオルはすぐに取ってやって。違和感でうなされることもあるから」 「なるほど」 「あと、うなされると吐いちゃうことがあるから、ホントにすぐに呼べよ!?」 「え!?そうなのか……了解です!」  相川に念押ししておいて、佐々木と一緒にリビングへと移動した。 ***

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