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夜明けの星 8-36(夏樹)

 昏睡状態になる直前……というか、そもそも雪夜が階段から落ちたのは、夏樹が雪夜の義兄たちと話しているのを聞いてしまって、雪夜が自分は本当はゲイじゃないと知ってショックを受けたせいだ……  雪夜が階段から落ちたこと、そのまま昏睡状態になったこと、目覚めた時には子ども雪夜になっていたこと……いろいろありすぎてそもそものきっかけを忘れてしまっていた。  そうか、全部思い出したということは、そのことも思い出したってことか…… 「雪夜さ……夏樹さんに申し訳ないって言ってた」 「……は?何が?」 「わかんないけど、チラッと……いろいろ俺のせいで巻き込んじゃった、とか、嫌われちゃうかもしれない……って呟いてた。詳しく聞こうとしたら話逸らされたから、何に対しての言葉だったのかはわかんねぇけど……」  ただでさえ俺を騙したことを気にしていたのに、実はゲイじゃなかったってことを知って、雪夜は戸惑い混乱していた。  兄たちに嘘をつかれたことにも傷ついていたけれど、それと同時に俺に対して申し訳ないと……あの時雪夜は自分を責めていたのかもしれない。   「それだな……あ~……うん、それだわ……」  夏樹はソファーに背中を預けて上を見ると、両手で顔を覆った。   「いや、まだ確実じゃねぇからな?」 「うん……そのことって感じなんだろうな。思い当ることが多すぎる……」  そりゃ雪夜が寄ってきてくれないわけだ……  ゲイじゃないと知ったことで雪夜も夏樹との距離感に戸惑っている可能性はある。  「ごめんなさい」の意味も何となくわかった。  ……ん? 「嫌われちゃう……って俺に?」 「え?あぁ、うん。だから、それがその……本当はゲイじゃなかったのに夏樹さんを巻き込んだから、嫌われちゃうってなったのかな~って……」 「……あ~それはあるかもな。雪夜すぐにマイナス思考になるから……」  雪夜が寄って来てくれない理由がそれなのだとすれば、しばらく距離を取った方がいいのかも……  え、待って。もしかしてうなされるのって俺のせい!?  ベッドも分けた方がいいのかな……  いや、でも眠くなると引っ付いてくれるしな~……  それに「ねぇね」は俺とは関係ないよな……? 「雪夜と距離置いたりすんなよ?」 「え?」  考えていたことを佐々木に言い当てられてちょっとドキっとする。 「あのさぁ、雪夜が夏樹さんに嫌われちゃうかもしれないって悩んでるってことは、夏樹さんに嫌われたくないからだろ?どうでもいいやつだったり、すでに嫌いだったら悩まねぇし」 「そりゃまぁ……」 「好きなんだよ。今だって夏樹さんのことが。だけど、過去の記憶とか、ゲイじゃなかったこととか、いろいろあって感情の整理が出来てないだけだよ。だいたい、雪夜が面倒くさい性格してんのはわかってるだろ?夏樹さんのいいところは甘え下手な雪夜をうまく甘えさせてやれるところしかねぇんだから、もっと頑張れよ!!雪夜が照れて逃げようとしても抱きしめて離すな!」 「お、おぅ……なんか……褒められてるのか、貶されてるのか、応援されてるのか……」 「全部だ」 「ははは……」  相変わらず遠慮なしにズケズケと言ってくる佐々木に、思わず苦笑した。  雪夜がゲイかどうかなんて夏樹には関係ない。  ただ、雪夜がゲイだと思い込まされていたおかげで俺たちは出会えたわけで、その点ではむしろ達也たちに感謝したいくらいだ。   「あ~ごめん、好き放題言って」  佐々木がちょっと気まずそうに首を掻いた。 「ん?別にいつものことじゃねぇか。お前が謝るとか気持ち悪いな」 「いや、だって、この数年間、夏樹さんは雪夜のためにめちゃくちゃ頑張ってくれてたし。よく考えると、たまにしか来ない俺が口出しすることじゃねぇよな。って思って……」  雪夜の保護者的な存在である佐々木にはいつも怒られてばかりなので、急にしおらしくなられるとちょっと反応に困る。  なんか背中がムズムズするな……   「でも雪夜にとっては夏樹さんは本当に特別だからさ。友人の俺らにしか出来ないこともあるし、恋人の夏樹さんにしか出来ないこともある。俺らも出来る限りサポートはするから……だからさ、もう少しだけ待ってやってくれない?距離を置くんじゃなくて、雪夜が素直に甘えられるまで、もう少しだけ傍で見守ってやってくれよ」 「あぁ、もちろん俺も雪夜から離れる気はねぇよ。ただ、今の状況に俺もまだ慣れてなくてな……今の雪夜にはどう接するのが一番いいのかを考えていたら、ちょっと混乱してきて……でもそうだよな。前みたいに雪夜を甘えさせてやればいいんだよな」 「前とは状況が違うとは言っても、夏樹さんのことが好きなのは変わらないんだから、好きでいていいんだって安心させてやればいいんじゃね?」 「安心……ねぇ……」  俺はいつも雪夜を愛してるって全身全霊で伝えているつもりなんだけどなぁ…… 「あ、でも照れてるんじゃなくて本気で嫌がってたら止めろよ!?」 「え?あ、はい!」 「まぁそれはあんたなら……」 「夏樹さ~ん!」  佐々木との会話は相川の押し殺した呼び声で遮られた。     ***

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