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夜明けの星 8.5-6(夏樹)
赤く染まったうなじに触れかけて手を止める。
いやいや、ダメだって!
雪夜、首弱いから急に触ると驚かせちゃうだろ!?
以前なら、何のためらいもなく雪夜に触れていただろうけど……この数年間で、随分我慢強くなったと思う。
それにしても邪魔だな~これ……そろそろ晃 さんに切ってもらわなきゃ……
うつむく横顔を隠すように揺れている髪をそっと指ですくって雪夜の耳にかけた。
「ひゃっ!?」
耳に触れた瞬間、雪夜が文字通り飛び上がって夏樹の手を振り払い、夏樹が触れた耳を手で押さえた。
「え?あ、ごめん」
耳に触れたのはほんの少し。
うなじはちょっと下心ありだったので思いとどまれたが、髪はほぼ無意識に触っていた。
あ、全然我慢できてなかったわ俺……
ここまで驚かれるとは思わなかったので、夏樹も驚いて素で謝っていた。
一瞬、病院で雪夜に手を振り払われた時のことが頭を過ぎる。
大丈夫、今の雪夜は俺のことをちゃんとわかってる……
わかっていて振り払われるのも辛いものがあるが、化け物でも見るような目で見られたあの時に比べれば……いや、実際雪夜にはみんなが鬼に見えていたわけだから、化け物みたいなものだけど……
「あ、あああの、違っ、ちょっとび、びっくりして、あの……ち、違くてっ……ごごごめんなさいっ!手、俺、あの……っ」
照れを通り越してパニクった雪夜が更に真っ赤になって、もう今にも泣き出しそうに顔を歪めた。
「雪夜、落ち着いて。俺が急に触ったのが悪いんだから。驚かせてごめんね?」
「違っ、夏樹さんは悪くないっ!……ですっ!……俺、あの……た、叩くつもりはなくて……っ」
夏樹の手を振り払った時に叩いてしまったことを気にしているらしい。
「ああ、これ?別にちょっと手が当たっただけだし」
夏樹は雪夜に振り払われた方の手を軽く振った。
「大丈夫。ほら、どこも痛くないし。ね?」
「でも、俺……そうじゃなくてっ、あの……」
「うん、わかった。じゃあ、雪夜から来て」
「……え?」
「俺雪夜に叩かれたせいで手が痛くて動けないから雪夜から来て?」
「え、手……でも、え?だって今……あの?」
「はい、どうぞ」
「痛くない」と言ったばかりなのに今度は「痛くて動けない」と言って両手を広げる夏樹に、雪夜が困惑顔になる。
「あの……夏樹さ……」
「あ~痛いな~だんだん痛くなってきた~折れてるかも~(棒読み)」
「ええ!?うそっ!?ごごごめんなさいっ!俺そんなに強く……わわっ!?」
雪夜が慌てて俺の手を両手で握って来たので、そのまま抱き寄せ背後から包み込んだ。
「はい、嘘でした~!」
「……へ?あれ?え、あの……ん?」
雪夜が夏樹の腕の中で首を傾げながらハテナマークを飛ばしまくっているのがおかしくて、ふっと笑いがこぼれた。
「ふふ、心配しなくても俺の手はあれくらいで折れないよ」
っていうか、俺の手よりも雪夜の手の方が弱いと思うよ?
「ええ!?あの、でも、じゃあ痛くは……?」
「ぜ~んぜん痛くないよ?」
「……良かったぁ~……」
雪夜の顔の前で手をグーパーして見せると、雪夜はようやくホッと息を吐いて少し夏樹にもたれかかってきた。
「雪夜の手は大丈夫だったの?」
「あ、俺は全然……っあの……大丈夫です……よ?」
「そう?」
「あの、夏樹さん……?」
「ん?」
「何を……」
「え?ケガしてないか確認してるだけだよ」
夏樹は雪夜の手を確認するフリをしてさりげなく雪夜の手に指を絡めると、手の甲に軽く口付けた。
「なっ……!?」
雪夜が驚いて夏樹を見上げた。
「ん~?手よりもこっちの方が赤くない?」
「ふぇ?何のこ……~~~っ!」
ようやく目が合ったので、雪夜の顔に手を添えて固定しそのまま口唇を重ねた。
「んっ、待っ……夏樹さ……っ!」
雪夜が手をバタバタさせたので、一旦離れる。
「なぁに?」
「く、首が……あの、すみません……痛くて……その……」
体勢的にちょっとキツかったらしい。
雪夜が申し訳なさそうに首を押さえた。
「そか、じゃあちゃんとこっち向こうか」
「え!?いや、そういうつもりじゃ……っ」
「はいはい、こっち向いて~?」
くるりと向きを変えさせ雪夜と向かい合い、両手で頬を包み込んだ。
「これなら痛くないでしょ?」
「ふぁい。え、でもあの……んぁっ……――」
***
――軽くキスをしてからかうだけのつもりだったのに、雪夜がだんだんと蕩けて来て「もっと……」と夏樹の首に腕を回して来たので……思わずそのまま押し倒していた。
だって、可愛い恋人におねだりされちゃったら、期待に応えないわけにはいかないでしょ?
「ん、んんっ!?……っ!」
舌を絡ませ、雪夜の弱いところを舌先で軽く刺激する。
弱いところは変わってないらしい。
キスをしながら耳を愛撫すると、ピクリと腰が浮いた。
「――ん、ふっ、ぁっ……っんん゛~~~~っっ!!」
久々のわりに……というか、久々だからか。
雪夜は思った以上に敏感に反応して、キスだけであっという間に果てた。
……え、果てた!?
「っ……雪夜!?」
ハッと我に返って慌てて口唇を離した。
「っゲホッ!ゲホッ!!――……っは……ぁ……」
雪夜は激しく咳き込んで、ようやく咳がおさまるとぐったりと目を閉じた。
ヤバいっ!やりすぎた!?
「雪夜、雪夜!大丈夫?」
ペチペチと軽く頬を叩く。
「……ん……」
「どこか苦しいところない?痛いところは?吐き気は!?」
「ん……もち……ょかっ……」
「……へ?……」
気持ち良かったって言った?……
「あ……そう?……うん、ならいいけど……はは……はぁ~~……」
ホッとして雪夜の肩口に顔を埋めた。
あ~ビックリした……
まさかあんなすぐにイくなんて……
雪夜は数年間子どもの状態だったので、セックスどころか自慰行為もしていない。
年齢によってはキスを迫って来る時があったが、その時の雪夜にはその先なんてきっとわかっていなかっただろうし……よくわからないまま抱いて、それが新たなトラウマになってしまうと怖いので……抱けなかった。
ようやく大学生まで戻ったものの……今の雪夜は記憶の整理に必死で、まだ体力的にも精神的にもそんな余裕はない。
それに、雪夜との間になぜか見えない壁を感じる。
こんな状態じゃまだ抱けない……
な~んて思い詰めていた俺はどこに行ったのかな~?
いや、まだ最後まではしてないけどね!?
ちゃんと抱くのはまだ無理ってことで……最後までしなきゃセーフ?
雪夜も気持ち良かったって言ってるし……セーフだよね!?
あれ?……って、雪夜寝ちゃってるし!!
そりゃ久々にイったんだから疲れて寝るよね~~……
ん?ちょっと待って!雪夜はなにか俺に話があったんじゃないの!?
ゆっくり話を聞くつもりだったのに、なんにも聞けてない!!
何やってんだよ俺ぇええええっ!!
夏樹は布団に突っ伏して心の中で叫ぶと、急いで雪夜の身体を拭いて着替えさせた。
***
雪夜の身体を拭くために温タオルを用意していると、どこからかクスクスと押し殺した笑い声が聞こえて来た気がして、慌ててクマのぬいぐるみを見た。
夏樹が見た途端、ピタっと笑い声が止まった。
ああああああああああくっっっそっっ!!後で絶対いじられるぅううううっっっ!!
夏樹は悔し紛れにクマのぬいぐるみにガンを飛ばしつつ、寝室に逃げ込んだ――……
***
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