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夜明けの星 8.5-14(夏樹)
雪夜にスマイル動画を見せたのは、記憶の整理の助けになればと思ったからだ。
スマイル動画に出て来る雪夜は全て笑っている。
つまり、この動画内の出来事は雪夜にとって楽しい思い出ばかりだ。
時系列は多少バラバラになっているが、もう何回も見ている夏樹はどこにどの画像、動画があるのか把握しているため、時系列順に雪夜に見せていくことが出来る。
辛い出来事ほど記憶に残りやすい。
楽しい思い出は、よほど印象的なことがない限りはあっさりと忘れてしまいがちだ。
でも、雪夜には楽しい思い出の方をたくさん思い出して欲しい。
こんなに笑顔になれる楽しい出来事が雪夜の日常の中に溢れていることを覚えていて欲しい。
ただそれだけだったのに……
夏樹にとって雪夜がスマイル動画で姉のことを思い出すのは完全に想定外だったので、意識下での姉の存在が思った以上に大きいことに内心動揺していた。
雪夜が自分の笑顔にこんなにトラウマがあったなんて……
――姉のことを思い出して若干不安定になっていた雪夜は、夏樹がしばらく抱きしめていると何とか落ち着いてきた。
だが……
一応落ち着いたけど、もうこの動画は見せない方がいいかな……
「雪夜、今日はもう寝ようか……」
「……ぇ?でも……見ないんですか?」
「見たい?」
「見たい!です!だって……夏樹さんの宝物……なんですよね?俺の……その……え、笑顔……」
ちょっと俯き加減だった雪夜が、小首を傾げながら上目遣いに夏樹を見た。
はい、萌っ……!
思わず真顔で悶えつつ、雪夜にはにっこりと微笑んだ。
「……うん、宝物だよ!わかった。それじゃ時系列順に見て行こうか。一番古いのはね――……」
***
「この写真は~……えっと、あの時だ!――」
雪夜が夏樹にもたれかかりながら、画面を指差した。
雪夜は記憶の整理に集中してくると、照れることを忘れるらしい。
言動がどちらかと言うと子ども雪夜の時の甘えたな状態になっていた。
夏樹にもたれかかったり、抱きついたりしながら、意識は記憶の中に入り込んでいる。
えっと、雪夜もしかして俺のことソファーか抱き枕と間違えてる?
まぁいいけど!
夏樹は雪夜がリラックスして甘えてくれている方が嬉しいので、雪夜が集中できるようにそっと背後から雪夜を包み込んで見守ることにしている。
「そうそう、この時はね、みんなで――」
「……あれ、ちょっと違った……」
整理の方法としては、まず雪夜が映像、画像を見てしばらく考える。
それから夏樹と一緒に答え合わせをしていくのだが、雪夜は映像と記憶の中の時系列が当たっていると手を叩いて喜び、外れていると一生懸命記憶を整理しようと腕を組んで難しい顔になる。
記憶のパズルを埋めていく作業は夏樹が想像する以上に大変らしい。
「いつ」「どこで」「誰と」「何があった」どれかひとつでも覚えていればまだマシだが、全部忘れている場合はある意味真っ白のジグソーパズルをしているようなものなのだとか……
それでも、言葉だけで説明をしていた時に比べると、こうやって映像を見ながら説明した方が雪夜も思い出しやすいらしい。
視覚情報のおかげで、記憶の欠片が探しやすいとのことだった。
「雪夜、ちょっと休憩しようか。ココア入れるね」
「うん……」
脳も使い過ぎると疲労する。
雪夜は体力もまだ戻っていない状態なので、身体的にも精神的にも疲労が激しい。
雪夜の様子を見ながら休憩を挟んでいくものの、雪夜自身は休憩中もずっと頭の中はフル回転しているようで、夏樹の呼びかけには上の空だ。
なので、集中しすぎている時は無理やり中断させるように気を付けている。
そのまま放っておくと、オーバーヒートして熱を出すからだ。
「はい、ココア飲んで。ちょっと考えるのは中断」
「うん……」
「ゆ~き~や?」
「うん……みゅ?っ!?」
夏樹は雪夜の顔を両手で挟み込んで自分の方に向けると、口移しでチョコレートを食べさせた。
お互いの舌の上で蕩けてなくなるまでキスをすると、さすがに雪夜も記憶の整理を中断せざるを得ない。
夏樹はキスが出来て嬉しいし、雪夜も休憩できるので一石二鳥の方法だ。
口の中がくそ甘いけど!!
「っん……ふぁ……」
夏樹が口唇を離すと、蕩け顔の雪夜が夏樹の服をきゅっと引っ張った。
「ん?もう一個欲しいって?」
「ふぇ?ちが……も、もうらいじょぶれ……んん~っ!?――」
まぁ毎回最低でも三個ずつは食べるよね。
甘いのは苦手だけど、それもこれも雪夜のためだから!!
***
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