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夜明けの星 8.5-16(夏樹)
翌朝、雪夜がまだ眠っている間に佐々木に連絡をした。
佐々木もまだ寝ていたらしく、完全に寝起きの顔だった。
別にビデオ通話にする必要はないのだが、佐々木からの電話を雪夜に繋ぐ時のクセでついビデオ通話にしてしまう。
「せっかくの休日に悪いな」
「ん゛~、ぃや、別にいいけど……ふぁぁ~~……(雪夜に)聞かれたくない内容ってことだろ?なに?」
佐々木が欠伸をしながらもぞもぞと布団から這い出し、目を擦りつつ先を促したので、夏樹は最近の雪夜の様子から気になる点を手短に話した。
「はあ?雪夜の様子がおかしい?」
「あぁ、佐々木は何か気になるようなことは聞いてないか?」
「ん~?別にそんな気になることなんて……あ゛っ……」
夏樹の話しに首を傾げていた佐々木が、一瞬顔をしかめた。
何か思い当ることがあったらしい。
「佐々木?」
「あ~~~……えっと~~~……これ言っていいのかなぁ~~……一応口止めされてんだけどな~……っていうか、風呂一緒に入ってるのか~……」
佐々木が画面から顔を逸らしてブツブツ呟きながら頭を掻いた。
口止めされてる?
俺には知られたくないってことか?
やっぱり俺のことがきら……いやいや、まだわからないから!!
夏樹は動揺を隠して軽く咳払いをした。
「佐々木、お前はその内容知ってるってことだよな?」
「は?まぁ、もちろん」
「雪夜が口止めしたってことは俺には知られたくないことなんだろうから、無理に言わなくてもいいけど……お前はどう思う?」
「ん?何が?」
「その……だからその……内容についてだよ!……雪夜の様子がおかしいこととその内容って関係があると思うか?あるとすれば、何かこう……ないか?例えば、その内容について俺が何かした方がいいとか、しない方がいいとか……」
っていうか、さっきは「無理に言わなくていい」とか言ったけど、ぶっちゃけ詳しく教えて欲しいっ!!ですっ!!
「あ~……う~んと……風呂に一緒に入りたがらないんだよな?」
夏樹の心の声が聞こえたのか、佐々木がちょっと困った顔をしつつも、観念したように話し始めた。
「あぁ、一緒に風呂に入りたがらなかったり、寝る時も俺から離れたり……」
「雪夜が今の状態に戻ってからもまだ一緒に入ってるんだ?」
「当たり前だろ?今の状態は時系列はあやふやでも過去の記憶が全部ある状態なんだ……溺れた時のことも思い出してるから水にトラウマがあるはずだし……」
夏樹が雪夜と一緒に風呂に入るようになったのは、隣人トラブルで不安定になった雪夜が、ひとりで風呂に入ろうとして倒れたことがきっかけだ。
一時は少し落ち着いていたものの、客船事故で溺れたことでまたひとりでは入れない状態になったので、結局雪夜とはほぼずっと一緒に入っている。
「う~ん……そうか、トラウマか~……そうだよな~……」
「なんだよ!?ハッキリ言えよ!!いや、言ってください!お願いします!!――」
雪夜がひとりで入ることが出来ないから一緒に入る、というのはただの建前で、夏樹にとっては雪夜のトラウマや体調は関係なく、好きだから一緒に入りたいだけだ。
恋人同士なんだから、別に一緒に入ってもいいだろ?
でも、雪夜はひとりで入れないから仕方なく俺と入ってただけで、本当は……
「雪夜は俺と一緒に入るのがイヤだったってことか……?」
「あ、いや、そうじゃなくて……え~と……あ~もう!これ、俺から聞いたって絶対に言うなよ!?うまくごまかして自分が考えたみたいに言えよ!?」
「わかってる」
「実は……――」
佐々木は渋い顔で念押ししてから、雪夜が風呂に入りたがらない理由について話してくれた。
***
「はあっ……!?」
佐々木から話を聞いた夏樹は、口をポカンと開けた状態でしばらく固まった。
***
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