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夜明けの星 8.5-18(夏樹)

 雪夜が何をしようとしていたのかについては、服を脱ぎながら聞くことにした。  他のことに気を取られている方が淡々と話せるので、雪夜にとってはその方が話しやすいだろうと思ったからだ。  内容的にね…… 「雪夜~、袖引っ張って~!すごいへばりついてる!」  浴槽の縁に腰かけた夏樹は、雪夜に手を伸ばした。  冬服なので、水分を含むとめちゃくちゃ重い。   「え、ちょっと待って下さい。う~ん……夏樹さん、これ引っ張ると服が伸びちゃいますよ!?」  セーターを脱がそうとして、雪夜が手を止めた。 「伸ばさないように脱がして。で、何してたの?」 「無茶振りぃ~!伸ばさないようにって……え、何って?」 「俺が来る前」 「あ~……えっと……あの……」 「あ、そこあんまり引っ張ると伸びる」 「えっ!どどどうやって脱がせばいいんですか!?」 「だから、こっちから……さっきのって、転んだわけじゃないんだよね?」 「あ、こっちからか。はい、転んだっていうか、あの、ちょっとビックリして……」 「何にビックリしたの?」 「あの、お尻を洗おうと思って――……」 「へぇ~……なんでお尻洗いたかったの?」 「夏樹さんとえっちするために決まってるでしょ!?」 「ですよね~……」  うぉ~い!雪夜さん!?  服に気を取られているにしても、今結構すごい事を真顔でサラッと言ったよ!?  心の中でツッコミつつ、表情には出さずに夏樹もサラッと流した。 「あ~もう!!これいっそのこと一気に脱いだ方が早くないですか?」 「あ、そこに気付いちゃった?」 「へ……?え、もしかして……わざと一枚ずつ脱いでたんですか!?」 「うん」 「……えええ~~~!?」  雪夜がぷくっと頬を膨らませて夏樹の手をペチッと叩いた。 「ははは、じゃあ一気に脱ぐから引っ張って?」 「え?あ、はい――」  夏樹は来ていた服を一気に脱ぐと、一枚ずつ絞って洗濯機に放り込んだ。  さて……と…… 「あ~スッキリした」 「もぅ!俺が手伝うより夏樹さん一人の方が早いじゃないですかぁ~~!」 「ん?気のせいでしょ。雪夜が手伝ってくれたから脱げたんだよ」 「え~?」 「そろそろ身体洗おうか、のぼせちゃうね」  夏樹はいい感じに温まった雪夜を抱き上げて浴槽から出すと、泡立てたシャンプーを雪夜の頭に乗せた。 「ところで……お尻、大丈夫?」 「ふぇっ!?おおお尻ですか!?え、な、なんで……っ!?」  子ども雪夜の時のクセで目に泡が入らないようにギュっと目を瞑っていた雪夜が、目を閉じたまま後ろにいる夏樹を見ようとキョロキョロと首を動かした。  あ、やっぱりさっき自分で言ったことに気づいてないな? 「洗おうとしてたんでしょ?」 「な、なぜそれをっ!?」 「さっき雪夜が自分で言ってたよ?」 「~~~~っっ!?」  雪夜が両頬を押さえて、声にならない声を出しつつみたいな顔をした。 ***  佐々木に聞いた話だと、どうやら雪夜は大学時代の記憶を整理していくにつれて夏樹に抱かれていたことも思い出したらしく…… 「――何かね……えっと、夏樹さんといるとね……む……」 「む?」 「ムラムラする!」 「ブフォッ!……ゲホッゲホッ」  ついこの間まで子どもの状態だった雪夜からそんな言葉が出て来たことに驚いた佐々木は、思わずお茶を吹き出した。 「え、佐々木!?だ、大丈夫!?」 「だ、だいじょ……ゲホッ!……悪い、もう大丈夫だ。それで、えっと……市町村が何だって?」 「違う!じゃないよぉお!!だから、ムラムラするんだってば!」 「う、うん。まぁ、恋人といるんだし、別に普通……だと思うけど?」 「そう……だよね?俺、一応、夏樹さんとその……えっちしてたんだよね?」 「あ~うん、そりゃまぁ……いや、見たわけじゃないから知らないけど……そこら辺も覚えてないのか?」  何でも話せる間柄とは言え、さすがにお互いベッドの上でのことは詳しく話したことはない。  ただ、夏樹と同棲を始めた頃にチラッと雪夜が佐々木に相談したことがあって……それも「夏樹さんが抱いてくれない」というような内容だったらしいが…… 「う~ん、あのね……夏樹さんとえっちをしてたことは何となく覚えてる……すごく幸せで気持ち良かったのは覚えてるんだけどね?ただ……やり方がわかんない……」 「……はい?」 「あの……え……えっちの仕方がわかんない……」 「お、おぅ……?」 「だからっ!!どうやってするのか教えてください!!」 「……ぇ?マジか……」 「お願いしますぅううう!!!こんなの頼めるの佐々木しかいないんだもん!!――」  ――というようなやり取りがあって、ひとまず佐々木がいろいろと男同士でのやり方を教えてくれたらしい。  つまり……雪夜がひとりでお風呂に入りたかったのは、コッソリと準備をしたかったということだ。    俺に抱かれるために準備がしたかったとか……何それ可愛っ!!  萌え死にそう…… ***

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