564 / 715
夜明けの星 8.5-23(夏樹)
翌日から、2日ほど雪夜は寝込んだ。
疲労もあるが、どちらかと言えば……筋肉痛だ。
予想通りではあったし、本人もわかっていてそれでもシて欲しいと言ったものだから、「痛い」とは言わない。
が、動けるわけでもない。
「ゆ~きや。起き上がれそう?キツイ?」
「……ヴぁぃ……ダイジョブデズ……」
「ブハッ!だいぶ痛そうだね」
夏樹は、絞り出すような声で返事をした雪夜に思わず吹き出し、笑いながら雪夜を抱き上げた。
「ぁ、あの、自分で……っ動けま……」
「だぁめ!そんな状態じゃ朝ご飯が昼ご飯になっちゃうよ。大人しく抱っこされてなさい」
「ふぁ~ぃ……」
「それにこれは……俺のお楽しみでもあるからね」
「……ふぇ?」
「何でもないよ。はい、到着!」
夏樹は雪夜のこめかみに軽く口付けてそっと雪夜を椅子に下ろすと朝食をテーブルに並べた。
「少しでもいいから、食べて?」
「ぁぃ……いただきましゅ……」
雪夜がベリーソースをかけたヨーグルトをちびちびと口に運ぶ。
良かった。食欲はあるみたいだな。
だいたい雪夜は翌日は食欲がないので簡単な食事になる。
それでも食べてくれればいい方だ。
夏樹は雪夜が食べているのを確認しつつ、トーストにマーガリンを塗った。
***
同棲を始めてから、ちょっとベッドで無理をさせてしまった翌日はだいたい雪夜をドロッドロに甘やかしていた。
不安定じゃない状態で雪夜を甘やかすことが出来るのはこういう時くらいだ。
何が楽しいって、自分で動けないから仕方なく俺にされるがままの雪夜が見られる。
顔を真っ赤にして恥じらう雪夜がめちゃくちゃ可愛い。
まぁ、最終的にはヤケクソになって「もうどうにでもしてください」状態になるけど、それはそれで可愛いのだ。
「トースト食べてみる?」
「……ぇ?……えっと……」
「はい、一口。あ~ん」
雪夜がチラチラとこちらを見てくるので、トーストを一口大にちぎって雪夜の口元に近付けた。
「ぇっ!?……あの、えっと……ぁ~ん……」
照れつつも口を開けパクリとトーストを食べた雪夜が、もぐもぐしながら「ふふっ」と笑った。
「おいし?」
「はい!」
「そか、良かった。ここの食パン美味しいよね」
「はい!ちょっと甘いですね」
「そうだね。また斎 さんに買って来てもらおうかな」
斎曰く、この近所のパン屋で買って来てくれたらしいのだが、夏樹はその店を知らなかった。
夏樹たちがこの家を離れている間に出来たパン屋らしい。
さすがに数年経てば街の様子も変わってくる。
浦島太郎状態なのは夏樹も同じだ。
雪夜がもう少し落ち着いたら、一緒に散策に出かけたいな。
雪夜とまたここで過ごしていくなら、街の様子はちゃんと把握しておきたい。
でもその前に……雪夜のリハビリも再開しないとな~……
***
ともだちにシェアしよう!