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夜明けの星 8.5-27(夏樹)
それから年末までの数日間は穏やかに過ぎて行った。
あの夜以降、雪夜が夜中にフラリと起きて歩くことはなく、姉のことを口にすることもないので、夏樹も何も知らないフリをして過ごしている――
「――あ、なっちゃんハゲ……」
「えっ!?嘘っ!?」
頭の上から裕也の声がしたので、夏樹は思わず手で隠した。
「ん?僕は激しい運動は程々にねって言おうとしただけだよ?」
「……はい?」
「でもまぁ、ほら、ストレスで円形脱毛症とかなるから気を付けてね~?」
明らかに確信犯な裕也が、ニヤニヤしながら二段階で弄って来た。
くっそぉ~!!何で俺こんな手に引っ掛かってんだ……!
激しい運動って……そんなに激しい運動してないし!
雪夜にもあんまり無理させてないし!!
裕也は、あの日夏樹が頼んだ後すぐにやって来てカメラやセンサーを設置してくれた。
今日はカメラ位置の調整と、クリスマスパーティーの打ち合わせを兼ねて来ているのだ。
っていうか、え、何?もしかして今のは裕也さんなりに心配してくれてるってこと!?
だとしても、なぜそれを今言ったんですか!?
そんなこと言ったら……
「え、夏樹さん、ハゲてるんですか!?ど、どこですか!?」
夏樹の隣に座っていた雪夜が立ち上がり、夏樹の頭を両手で掴んで頭のてっぺんを見ようとグイッと前に押し下げた。
「ちょ、痛てて、雪夜、首がもげちゃう!っていうか、探そうとしないで~!」
本当にハゲがあったら俺地味にショックだからっ!!
もう年齢的に洒落にならん!!
あ、でも円形脱毛症だったら治るんだっけ?
「あ、すすすみません!ち、違くて、あの、探したいわけじゃなくて、もし出来てたらそれって……確実に俺のせいだし……だからあの……ごめんなさい……」
雪夜がしょんぼりと俯いた。
ほらぁ~!雪夜が気にしちゃうでしょ~!?
夏樹はバッと裕也を振り返り一瞬顔をしかめると心の中で文句を言った。
そして、雪夜に向き直るとチラッと斜め上を見てニヤリと笑った。
「そう思う?」
俯いている雪夜を下から覗きこむ。
「え?」
「俺にストレスハゲが出来たら雪夜のせい?」
「あ……あの、だって……俺しかいないじゃないですか……」
「そうか~……じゃあ、俺がハゲないように俺のストレス発散手伝ってくれる?」
「え?あ、はい!もちろんで……ふぇっ!?」
夏樹はにっこり笑って雪夜の喉元からうなじへとスルリと手を滑らせ、グイッと引き寄せた――
「どっこいしょっと!はいはーい、それは打ち合わせが終わってからね~!」
夏樹が雪夜にキスをしようとした瞬間、裕也がズボッと間にクッションを挟み込んできた。
「んぶっ!ちょっと裕也さん!?」
「ぅぶっ!……ほぇ?あ……れ?」
せっかくどさくさに紛れて雪夜とイチャイチャしようと思ったのに!
夏樹が裕也にクッションを投げつけて文句を言っている隣で、雪夜は何が起きたのかわからないという顔でキョトンと首を傾げつつ二人のやり取りを見ていた。
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