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夜明けの星 8.5-28(夏樹)

「はい、それじゃ打ち合わせ始めます!サクサクいくよ~!」 「ふぇ~い」  夏樹がちょっといじけつつ返事をすると、雪夜がクスクスッと笑って、夏樹を宥めるように膝をポンポンと叩いた。 「パーティーの流れは今年の正月にしたのと基本は同じ。料理担当はタカといっちゃん。なっちゃんは手伝えそうなら手伝ってあげてね~」 「はーい」 「飾りつけはその他のヒマな人たち。雪ちゃんも飾りつけ一緒にしようね~」 「あ、はい!」 「で、今日なっちゃんと雪ちゃんがすることは、プレゼント交換用のプレゼントをラッピングすることでーす!と言ってもまぁ……入れるだけなんだけどね?」  裕也は、持ってきた紙袋の中からクリスマスっぽい大小のラッピングバッグをいくつかテーブルの上に並べた。  あ~そういえば……前回のクリスマスパーティーで大変だったから、今度からプレゼントはなるべくラッピングバッグに入れようってなったんだっけ。 「プレゼント交換……ですか?」 「そそ、一人一個ずつプレゼントを持ち寄って、みんなで輪になってプレゼントグルグル回して、ストップした時に手元にあるプレゼントをもらえるんだよ~」 「へぇ~……楽しそうですね!」  裕也の雑な説明に、雪夜がハテナマークを飛ばしつつ笑った。 「今年の正月にもしたけど、?」 「え?俺もやったんですか?」 「もちろん!」 「あ、えっと、ちょっと待ってくださいね……あの……俺、あの、みんなとクリスマスパーティーみたいなのをしたのは薄っすら覚えてるんですけど……――」  雪夜が記憶を探すために慌てて頭を抱えた。 「あぁ、別に覚えてないならいいよ。当日やってみたら思い出すかもしれないし、思い出せなければまた新鮮な気持ちでやれるから、それはそれで楽しめていいでしょ?」  あっけらかんと言う裕也に、雪夜が驚いた顔をした。  そもそも、大学時代の記憶と違って子ども雪夜になっていた間の記憶は、精神的に不安定だったこともあり夢だと思っていたようだし、実際の子ども時代の記憶と混ざってしまっている部分もあるらしいので、ぼんやりとしか覚えていないのも無理はない。 「俺もそう思う。雪夜、無理に全部の記憶を思い出さなくてもいいんだよ。特にこういうイベント事はね。覚えてないならまた新しくピースを埋めて行けばいいんだ。だって、これから繰り返していくんだよ?クリスマスもお正月もバレンタインもお花見も……楽しい思い出はこれからいっぱい増えていくんだよ。だから、その中で雪夜にとってめちゃくちゃ楽しかったとか、面白かったとか、印象的な出来事だけを残して行けばいいんだよ」  夏樹はさりげなく、思い出が毎年増えていくことを強調した。  思い出を増やしていけるんだよ……? 「で、でも……毎回少しずつ違うでしょ?その時に感じた気持ちはその時しかないでしょ?だから……今までのも出来るだけ思い出したい……です……」  両手を握りしめて、雪夜が泣きそうな顔で二人を見た。 「うん、雪夜が思い出したいなら俺たちも手伝う。ただ、絶対に思い出さなきゃいけないって力まなくてもいいんだよってことだよ」 「あ、はい……」 「何なら『夏樹さんが大好き』ってことだけ思い出してくれれば他のことなんて忘れちゃっても全然いいんだよ?」 「ええ~!?って、それはイベント関係ないじゃないですかっ!」  ふっと雪夜の肩から力が抜けて、困ったような顔で笑った。  裕也が言うように、みんなと話しているうちに思い出せるかもしれない。  それでも思い出せないようなことなら、思い出す必要のない内容だと言うことだ。  イベント事なんて、それくらいいい加減でいいんだよ……?   ***

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