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夜明けの星 9-1(雪夜)
自分が自分じゃないみたいだ
思うように回らない舌
思うように動かない身体
思うように思い出せない記憶
すべてがもどかしい……
バラバラになった記憶のパズルの山の中
ひとりで座り込む
ぽっかりと抜け落ちているピースを拾い集めて
ちぐはぐになっている時系列を戻して
でも自分じゃどこが抜け落ちているのかもわからない
終わりの見えない作業に茫然とする……
***
ずっと白い靄 がかかっていた記憶
その靄が晴れたら、自分は空っぽの人間だった
自分が歩んで来た平凡で当たり前の過去なんてなくて
すべてが嘘
すべてがまがい物
本当は真っ黒い部屋と真っ白い部屋にひとりぼっち
でも、それでいいんだ
だって、俺は……おれは……ゆきやは……ヒトゴロシだから……
まっくろくろのオニさんが、おしえてくれた……
――きみのせいでお姉ちゃんはしんだんだよ……
ねぇねをころしたのも……
――きみのせいでみんなが鬼になっちゃうんだよ……
みんながオニになったのも……
――全部きみが悪い子 だからだよ……
ぜんぶぜんぶゆきやのせい……
ゆきやがわるいこ だから……
――ヒトゴロシは檻に入らなきゃいけないんだよ……
ゆきやはおりにはいらなきゃいけない……
ゆきやはそとにでちゃだめ……
ゆきやはここに……いちゃ……ダメ……?
***
そとにでちゃダメ……
でも……ここはとっても……アタタカイ……
ここはドコ……?
真っ黒い部屋でも真っ白い部屋でもない
温かくて、心地良くて、ふわふわする
いい匂いがして、ホッとする
もう少し……ここにいてもいい?
ずっと……ココニ……イテモ……
――だよ……
ダレ?
――大丈夫だよ
ダイジョウブ……?
――そばにいるよ
ダメだよ……ゆきやは……わるいこ だから……
――ずっと一緒にいるよ
ずっといっしょ……?
――いつだって……愛してるよ……
ゆきやも……ゆきやも“――”!!
***
「――や、雪夜!!」
「っ!?」
身体を揺さぶられて目を開けた。
まぶしい……
目を開けていられなくて、少し細める。
「起きた?」
「……だ……れ……?」
なんでこんなにまぶしいんだろう……
「夏樹さんだよ、わかる?」
“なつきさん”……?
そうだ、“なつきさん”だ……
「なちゅしゃ……」
「うん、もう大丈夫だからね。怖かったね――」
“なつきさん”は、ふわっと微笑んで抱きしめてくれた。
うれしいな……
もうだいじょうぶ……
あったかい……
***
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