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夜明けの星 9-2(夏樹)

 正月のパーティーでは、雪夜は楽しみつつも時々壁際に寄ってみんなの様子をぼんやりと眺めていた。 「雪夜、どうしたの?疲れた?」 「いえ……あの、俺の中ではね?……もっと小さい頃にこうやってみんなとクリスマスパーティーをしたような気がして……しかも、一回じゃなくて何回も……でも実際は去年のお正月の話しで……たった一日の間の出来事で……時系列がバラバラになってるから何か変な感じで……」 「まぁ、間にお昼寝とか挟んだから、もしかしたらそれで記憶が途切れてるのかもしれないね」  たった一日の出来事にしては内容が濃すぎるしな~……  クリスマスからお正月までいろいろ混ざってるし……  うん、改めて考えるとめちゃくちゃなパーティーだし、混乱するのが普通だと思うよ? 「あ……あれお昼寝だったんですか?なんか目が覚めたらみんなも一緒に寝てて、それがすごく嬉しくて……」  雪夜が嬉しそうに、ふふっと笑った。  そういえば……  夏樹も、あの時、みんなを見て嬉しそうに微笑んでいた雪夜の顔を思い出して口元を綻ばせた。 「ゆ~きちゃん、どう?楽しんでる~?」 「あ、斎さん。はい!楽しいです!あの、でも、こんなにしてもらったのに去年のことはあんまり覚えてなくて……」  雪夜が夏樹にしたのと同じ話しを繰り返した。 「あぁ、そうなんだ?一日の出来事が数年分の出来事になってるなら省エネでいいんじゃねぇの?」 「しょ、省エネ?」  他人様の思い出を省エネ呼ばわりするのはどうかと思うが……  斎の言葉のチョイスもたまに謎だ。 「まぁ、それは冗談だけど。去年のパーティーをした時は子ども雪ちゃんだったんだから、子どもの頃の記憶に混ざっていてもおかしくないと思うぞ?」 「そうなんですかね?……でも、あの、俺……実際は子どもの頃は……」 「それよりも!現在(いま)を楽しもうよ。去年俺らが一緒にパーティーをしたのは、あくまでも“子ども雪ちゃん”だ。あれはあれで楽しかったけど、“今の雪ちゃん”とするのは初めてなんだから、雪ちゃんには“初めてのパーティー”を目いっぱい楽しんで欲しいな~」  斎が雪夜の言葉を遮って、ニッと笑った。 「今の俺には……初めてのパーティー……」  雪夜が意表を突かれたような顔で斎を見た。  その隣で、夏樹も同じ顔をして斎を見た。    そうだ……雪夜につられて夏樹も去年の記憶と照らし合わせることばかり気にしていたけれど、今の雪夜と作る思い出の方が大事じゃないか!  これから楽しい思い出をたくさん作っていってあげようと思っているのに、俺まで雪夜の過去に引きずられてどうするんだ……  っていうか、待てよ?よく考えると、俺にとっても大学生状態の雪夜と過ごす初めてのクリスマスパーティー、初めてのお正月ってことじゃないか?……   「ぅわああああああああっ!!」 「ふぇっ!?」 「うるせっ!急に叫ぶな!何だよ?」  斎が急に叫んだ夏樹の頭を軽く叩いた。 「あ、ご、ごめんね、雪夜。驚かせちゃったね、大丈夫?」 「は、はい!大丈夫です。あの、俺よりも……夏樹さんは大丈夫ですか?」 「うん、大丈夫……じゃないかもしれない~~……」  夏樹は両手で顔を覆った。 「ええっ!?」  今の雪夜となら、数日前のクリスマス当日、ちゃんとクリスマスが出来たじゃねぇかっ!!!何でしなかったんだよ俺のばかぁああああああああっ!!  夏樹たちは、去年と同じように正月にみんなとパーティーをするからと、24日も25日も、ふつ~~~~に過ごしていたのだ。    え、マジで俺バカじゃん?  何やってんの!? 「ナツ……お前が何考えてんのかはわかってるけど、雪ちゃんがびっくりしてるからそろそろ帰ってこ~い!」 「何でわかるんすかぁあああああああああ!!」 「こら、ナツ!さっきからうるせぇぞっ!!」  離れた場所にいる浩二たちからも口々に叱られた。 「いや、裕也から特別なこともなく、普通に過ごしてたって聞いたから、せっかく二人っきりなのに何やってんだろうな~って話してたんだよ」 「気づいてたなら教えて下さいよぉおおおおおおっ!!」 「ははは、まぁ今年は頑張れ~」 「くそぉ~~!!」 「あ、あの、夏樹さん?俺何かやらかしましたか……?」  夏樹の様子に戸惑った雪夜がオロオロしながら夏樹の服を軽く引っ張った。 「大丈夫、雪夜じゃないよ!俺だから!俺がっ!ミスったのっ!俺がね!?人生最大のミスっ!!いや、最大じゃないかもしれないけど、それくらいのミスっ!!」 「え、あ、えっと……ど、どんまいです!」  雪夜が両手の拳をギュっと握って、夏樹に向かってブンブンと振った。  夏樹が何を言っているのか全然わからないけれど、とりあえず夏樹を励まそう!と頑張っている雪夜が可愛い。  いや、マジ天使……  天使すぎて……  萌っ…… 「……んん゛、ありがと!」  夏樹は思考力が停止して語彙力皆無(ゼロ)だった自分に苦笑いをしつつ、雪夜に抱きついた。    今年は絶対する!  雪夜、クリスマスまでにお出かけ出来るようになるかな……?  お出かけもいいけど、家でもいいよね……!?  うん、よし!いろいろプラン考えておくからっ!!  絶対に二人でクリスマスしようね!―― ***

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