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夜明けの星 9-3(夏樹)
「雪夜~、この次はどうするの?」
夏樹は折りかけの折り紙を雪夜に見せた。
「え?あ、えっと……ここまできたら、あとは……こうやって~……あれ?……あの、こうやったらこうなるらしいんですけど……あれ?俺が折ったの間違えてる……ちょっと待って下さいね!?え~と……」
雪夜が動画を見ながら一生懸命解読していく。
が、なかなか思うように出来ないらしい。
「どれどれ?あ~……こうかな?」
雪夜の隣から画面を覗きこんだ夏樹は、わざと時間をかけて少しずつ折って見せた。
「あ、そうですそうです!夏樹さんスゴイ!……え、待って、今のどうやったんですか?――」
手を叩いて喜ぶ雪夜が、ハッと手を止め、不思議そうに夏樹の顔を見た――……
***
「無理に全部思い出さなくてもいい。イベント事は楽しんだもん勝ちだよ!――」
「今の雪ちゃんとは初めてなんだから、初めてのパーティーを楽しんでもらいたいな~――」
一見いい加減に聞こえる裕也たちの言葉は、思い出さなければ!と思い込んで視野が狭くなっていた雪夜の考え方に少なからず影響を与えてくれたらしく、雪夜は以前ほど記憶のピースを埋めることに躍起になることはなくなった。
また、子ども雪夜の写真や動画データをみんなから集めて、裕也が新たにスマイル動画のような感じでこの数年間の雪夜の記録動画を作ってくれたので、最近はそれを見ながら記憶の答え合わせをしているのだが、わからないことや気になることがあるとすぐに聞いてくるようになった。
夏樹や兄さん連中がわかる範囲で答えてやると、その記憶を探すというよりは、新しくインプットしている様に見える。
果てしなく積み重なったパズルの山の中から探し出すよりも新しくインプットする方がラクらしい。
雪夜なりにバラバラの記憶との付き合い方が確立されつつあるのかもしれない。
雪夜は実年齢に戻ったと言っても完全に戻ったわけではなく、犯人による洗脳の影響もあり、相変わらず不安定だ。
雪夜がグダグダ悩んでいる時は、だいたいその影響で正常な判断が出来ていない時なので要注意になる。
と言っても、未だにどういう内容で、どのくらい洗脳されているのかわからない。
夏樹たちにわかっているのは、「約束を破ってしまったので人間が鬼に見えるようになった、みんなを鬼に変えてしまったのは雪夜のせいだと思っている」ということや、「姉を殺したのは雪夜だと思っている」ということなどだが、その他にもきっと……もっといっぱいあるはずだ……
雪夜のそういう負の記憶を打ち消すくらい楽しいことをたくさん経験させてやりたい。
楽しい記憶でいっぱいにしてやりたい。
それは兄さん連中も佐々木たちもみんな共通の想いだった。
だが、なんせ今の状態に戻ってからは状況を整理したり、雪夜が慣れるまで様子を見たりしていたせいで、リハビリが出来ていない。
案の定、だいぶ体力が落ちてしまって、遊びに行くどころか別荘のルームランナーで10分散歩するだけで息が切れてへたり込んでしまった。
だからまずは、リハビリをして体力をつけることから始めることにした。
そのために、夏樹たちはまた別荘に戻って来た。
リハビリのために病院へ通うのは雪夜が嫌がったので、それならリハビリルームがある別荘に行こうということになったのだ。
雪夜は、学島ともすぐに打ち解けて、せっせとリハビリに励んでいる。
ちなみに、折り紙もリハビリの一環だ。
指先が不器用で、力加減がうまくできない雪夜だが、クリスマスパーティーの飾りつけ担当として菜穂子からフラワーペーパーのお花や輪っか繋ぎを任されて作ったのが楽しかったらしく、それ以来折り紙にハマっているのだ。
夏樹も一緒にやっているけれど、基本的に夏樹は少し遅れて折り始めることにしている。
先に折り始めた雪夜に“教えてもらう”ためだ。
雪夜はネットで拾って来た折り方の動画を見ながら折っている。
わかりやすく説明してくれているのだが、たまに細かすぎる折り方や、ちょっと難しい開き方があって、不器用な雪夜ではなかなか出来ないことがある。
夏樹はそういう部分を狙って、雪夜に折り方を教えてもらうのだ。
俺が自分で動画を見た方が早いのだけれど、俺に教えるために雪夜が一生懸命になっているのが可愛……
あ、いや、あくまでもリハビリのためだよ!?
雪夜の困った顔や一生懸命な顔が見たいがために、わざと難しいところを教えてもらってるわけじゃなくてね?
俺に教えるために雪夜が自分で一生懸命理解してやってみせようとすることがリハビリに繋がるわけで……
もちろん、雪夜が本当に困っている時は夏樹が自分で動画を見て、やり方を教えてあげている。
「――あ、ほら、雪夜、もう後ここを折れば……」
「あっ!か~んせい!!出来ましたぁ~!」
「スゴイね~!ところで、これって一体何なの?」
「え?え~と……“キレイなお花”……です!」
雪夜が動画の説明文を見て自信満々に答えた。
「何の花かはわからないんだ?」
「え?だから“キレイ”なお花ですよ!」
ん?
「……そっか、“キレイ”なお花なんだね!」
「はい!」
“キレイ”が花の名前だと思っているらしく、雪夜は何度も連呼していた。
うん、そういうちょっと天然なところも好きだよ!!
***
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