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夜明けの星 9-5(夏樹)
「今日はコレを折りたいと思います!」
雪夜が見せてきた画面を見て、夏樹はどう返事をするべきか迷った。
「ん~……?あぁ、うん、いいんじゃないかな?」
「はい!」
コレは……ただオススメ動画に上がってたから折ってみようと思っただけ?
それとも……俺にくれるのかなぁ……?
それはないか。だって一緒に折ったらネタバレもいいとこだし……
あとで雪夜が折ったやつ……ひとつもらおうかな……
夏樹は自分に苦笑しつつ折り紙が入ったケースを取り出すと、雪夜に渡した。
雪夜が折り紙にハマったことを知った菜穂子が、100均でいろいろな種類の折り紙を大量に買って来てくれたので、選び放題だ。
「う~ん、今日はどれにしようかな~!……これとかいいな~。ね?夏樹さん!これ可愛いですよね~!」
「うん、可愛いね!さてと、俺は晩飯の仕込みしてくるから、先に折っててね」
「あ、俺も手伝います!」
「え……?」
以前からたまに料理の手伝いはしてくれていた。
が、今の状態に戻ってからは雪夜はそれどころじゃなかったし、最近は折り紙に夢中だ。
夏樹が仕込みをしに行くと言ってもいつも生返事だったので、急に手伝うと言われてちょっと驚いてしまった。
一瞬固まった夏樹を見て、なぜか雪夜も驚いた顔をすると、慌てて俯いた。
「……あ、えっと……すみません」
あ……
「うん、じゃあお手伝いしてもらおうかな!雪夜、エプロン持っておいで。場所わかる?」
「あ、もう大丈夫です!」
なにが!?もう大丈夫ってどういうこと!?
「お手伝いしてくれるんでしょ?一緒に作ろうよ!今日はね~……」
「いえ、あの、さっきのはちょっと間違えただけで、あの、俺、折り紙します!」
雪夜が無理やり笑顔を作って夏樹を見ると、手に持っていた折り紙を振った。
間違えたって何を!?
「……わかった、じゃあ、俺も一緒に折り紙する」
夏樹が一度つけたエプロンを外しながら言うと、雪夜が慌てて首を横に振った。
「えっ!?いやいやいや、あの……あ、そうだっ!俺、がく先生のところに行ってきます!」
「学先生のところ?なんで?」
「え~と、あの、えっと、そうだ!あの、コレは学先生と一緒にすることになっていた気がします!」
「え、ちょ、雪夜っ!?待っ……」
夏樹が戸惑っている間に雪夜はさっさと折り紙とタブレットを持ってリビングから出て行ってしまった。
え~……待って……
俺、置いて行かれた……?
え、何!?
間違えたって何!?
俺がすぐに返事しなかったから何か勘違いしたんだろうけど、何をどう勘違いしたんだ?
雪夜はまだ走れないので追いかけようと思えば追いかけられる。
でも、学島のところに行くと言っていたし、別荘から出ようとしたらセンサーが反応するはずなので、夏樹はひとまず学島からの連絡を待つことにした。
ドサッとソファーに座り込んで髪をガシガシと掻き乱す。
あ~くそっ!
なんですぐに返事してやらなかったんだよ俺のバカっ!!
雪夜が元に戻ってから、接し方の違いに未だに戸惑う。
基本的には変わらないのだけれど、夏樹にだけは感情をストレートにぶつけてくれていた子ども雪夜と違って、今の雪夜は何でもかんでも我慢して全部飲み込んでしまう。
声が出ない、言葉が通じない状態の雪夜の感情を読み取るのも大変だったが、あの頃は夏樹がちゃんと理解できるまで雪夜が一生懸命伝えようとしてくれていたから何とかなったのだ。
雪夜が伝えようとしてくれなければ、どうにもならない……
雪夜の考えが、感情が、何も読めない……
自分のポンコツさ加減に泣けてくる……
夏樹が天を仰いだ時、学島からメールが来た。
『雪夜くん、母屋に来てます。どうやら少し落ち込んでいるようなので、しばらく話を聞いてみますね』
『すみません、お願いします……俺がちょっと反応間違えたみたいで……』
『仲良しですね。雪夜くんも同じこと言ってますよ』
ん?同じこと?
雪夜も反応間違えたって言ってるってこと?
どの反応!?
じっと携帯を見つめてやきもきしながら学島からのメールを待っていると、30分程してようやく返信があった。
『え~と、夏樹さんを困らせちゃったと……以前のノリで「手伝う」って言っちゃったけど、考えてみたら今の自分は料理どころか洗い物さえ出来ないのに――……だそうですよ』
あぁ……
「ははは……」
夏樹は自嘲気味に笑うと、もう一度ガシガシと髪を搔き乱し、ひとつため息を吐いた。
『わかりました――』
短く学島に返信し、髪を手ぐしで撫でつけながら母屋に向かった。
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