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夜明けの星 9-7(雪夜)
「――って感じで……」
「ふむふむ、あれ?でもプレゼントするのに夏樹さんと一緒に折っちゃったらネタバレになっちゃうんじゃないの?」
「そうなんですけど、でもあの……夏樹さんがいつも一緒に折ってくれるから……」
「うん」
「これも夏樹さんが一緒に折ってくれるかな~って……そしたらね?その……夏樹さんが折ったハートをあとでこっそりもらっちゃおうかな~って思って……あ、これ内緒ですよっ!?こっそりだからね!?こっそり!!一緒の色のハートだとどっちのかわからないでしょ?まぁ、いつも夏樹さんの方が上手なんですけど……でもこのハートは簡単そうだから俺でもちゃんと折れそうだし!だからあの……」
ハートの折り方は意外と種類が多い。
簡単な折り方もあれば、一枚の折り紙からダブルハートにできる折り方や、ハートの入れ物の折り方も……
雪夜は、夏樹にはこのシンプルなハートではなく別のちょっと変わったいろんなハートを自分だけで折って、いっぱい渡そうと思っているのだ。
ちなみに、今まで二人で折った作品は夏樹が別荘のあちこちに飾ってくれている。
きっと夏樹はこのハートもどこかに飾ってくれるはずだ……
だから、夏樹さんが見てない時にこっそりと夏樹さんが折ったハートを貰っちゃおうかな~って……
「いいんじゃないですか?きっと夏樹さん喜びますよ!」
学島がいつものようににっこりと微笑んだ。
「そうですかね?」
「大好きな人が一生懸命折ってくれたハートなんだから、嬉しいに決まってます!心配しなくても大丈夫ですよ!」
夏樹さん喜んでくれるかな……嬉しいって思ってくれるかな……
「ふふ、だといいな~……」
雪夜は呟きつつ、優しく励ましてくれる学島に微笑んだ。
が、すぐに視線が下に落ちた。
「でも俺失敗しちゃった。一緒に折って夏樹さんのハートを貰おうとか邪 なことを考えてたせいで……」
夏樹はいつも一緒に折ってくれるが、最初から一緒に折り始めるわけではない。
何と言っても、夏樹は雪夜の面倒を見ながらリモートワークと家事全般をこなしているので、めちゃくちゃ忙しいのだ。
だから、いろいろと用事を済ませて、手が空いた時に雪夜の様子を見に来てくれて、一緒に折ったり難しいところを一緒に解読してくれたりする。
だけど、今日はどうしても最初から一緒に折っていきたかったから、夏樹が晩飯の仕込みをすると言った時に、思わず「手伝う」と言ってしまった。
俺が家事を手伝えば、そのぶん早く用事を済ませられるから、夏樹さんが早く折り紙の方に来てくれるよねって……
でも……
雪夜は夏樹の驚いた顔を見て、自分のミスに気付いた。
手伝うって……何を?
考えてみたら今の自分は料理どころか洗い物さえ出来ない……
以前一度チャレンジしてみたが、指先や手首の筋力の加減や連動がうまくいかず、開始5秒でお皿を割ってしまってお手伝いは即終了したのだ。
俺が手伝えば、早く済ませられるどころか邪魔になるだけだ……
今の自分がしなきゃいけないのは指先や手首の訓練であって、出来もしないお手伝いをして夏樹さんの邪魔をしちゃいけない。
「お手伝いをしたいならもっとリハビリを頑張って筋力つけないとですよね!」
雪夜は情けない自分に内心泣きそうになりつつ、空元気を出して学島に笑って見せた。
「雪夜くんはちゃんと毎日リハビリを頑張っているので、だいぶ筋力はついてきていますよ。あとは実践で少しずついろんな動きをしていくだけです。洗い物がしてみたいなら、割れにくい食器を使って練習してみますか?最初から割れやすい食器だと落とした時にケガしちゃいますからね。洗剤で滑りやすくなるので洗い物は結構難しいんですよ。がく先生もよく食器落として割っちゃいますからね……」
学島がおどけた顔で雪夜に手を見せた。
「割れにくい食器……?」
「雪夜くんが子どもの状態になっていた時に使っていた食器が、たしかそんな素材だったと思いますよ。ねぇ、夏樹さん!」
学島が雪夜の背後に向かって声をかけた――
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