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夜明けの星 9-13(雪夜)

 雪夜は夏樹に冷ましてもらいつつ、何とか雑炊を食べ終わった。 「ごちそうさまでした~!美味しかったです!」 「それは良かった。さてと、それじゃ歯磨きしておいで。まだ早いからもう少し寝るよ」 「あ、はい!……ぁっ……」 「ん?」 「あ、いえ!え~と、歯磨きしてきます!」 「うん」  シンクに運ぶくらいは……と思ったのだが、雪夜が片づける前に夏樹がさっさと食器をシンクに持って行ってしまったので、雪夜は洗面所に行って歯磨きを始めた。  鏡に映った自分を見ながら、ふと手が止まる。  夏樹さんの作ってくれるものは何でも美味しい。  きっと熱いうちに食べればもっと美味しいんだろうけど、何しろ俺が猫舌なせいで(ぬる)くなってからじゃないと食べられないのが申し訳ない。  しかも、作ってくれた本人に冷ましてもらうとか……  あれ?もしかして俺ってめちゃくちゃ失礼なんじゃないの……?  ……でも夏樹さんがフーフーしてくれるのはちょっと……いや、かなり嬉しい……  さすがに食べさせてもらうのは恥ずかしいけど、フーフーする時の夏樹さんの顔が可愛くて……って、あ~もう!何考えてんの……!?  ギュっと目を瞑って頭をプルプル振っていると、 「雪夜?どうかした?」 ガシッと頭を掴まれて耳元で夏樹の声がした。 「ぅひゃおっ!?」 「おっと……」  驚いてのけ反ったせいでよろけた雪夜を、夏樹がさっと抱き留める。 「あ、すすすみません!」 「いや、驚かせたのは俺だから。ところで、歯磨きは終わった?」 「え?あ、歯磨き!そう、歯磨き!してますよ~!?」  夏樹のことを考えていたので、動揺して何を言っているのか自分でもよくわからなくなっていた。 「磨くの手伝おうか?」 「はい!……へ?」  何を手伝うって? 「ブハッ!……っくく……」 「……夏樹さん!?何笑ってるんですか!?」 「いや、手伝っていいんだ?」  横を向いて吹き出していた夏樹が、ちょっとからかうように雪夜を見た。 「手伝うって……何をですか?」  歯磨きって手伝えるようなことあったっけ? 「ちょっと歯ブラシ貸して?はい、あーん……」 「あ~ん?」  まだ動揺していた雪夜は深く考えずに言われるまま夏樹に歯ブラシを渡し、口を開けた。  夏樹はその雪夜の顎に軽く指を当てて、歯ブラシを口に突っ込むと、器用に磨き始めた。 「んがっ!?」  手伝うって、そういうことかあああああああああああ!!!  子どもみたいに夏樹さんに磨いてもらうってことだったんですね……っ!? 「んあ゛~~~っ(もういいですぅうううう)!!」 「こら、動くと喉突いちゃうよ?危ないからジッとしてて?」 「っ!?」  ようやく意味がわかったものの、雪夜は口を開けたままなので話すことも出来ず、夏樹の手を掴もうとすると「動くと歯ブラシが喉に当たるよ」と叱られてしまったので、じっと固まっているしかなく……  結局、夏樹が最後までピカピカに磨いてくれた。 「はい、おしまい」 「……ぁりがとうござぃました」  雪夜はもごもごとお礼を言って口を漱ぎ、口を拭きつつタオルに顔を埋めた。  恥ずかしぃいいいいっ!!  大学生にもなって歯磨きしてもらうとか……どんな顔すればいいの……? 「雪夜?もう大丈夫?寝に行くよ~」 「……ぁ……はぃ……あの、お先にどうぞ……」 「ん?一緒に行こうよ。どうせ寝るとこ一緒なんだから」 「そうなんですけど、あの……」 「はいはい、もう寝るよ~」 「ええっ!!夏樹さんっ!?」  とりあえず、ひとりになって落ち着きたくて夏樹に先に戻っていて欲しいと言ったのだが、なぜか問答無用で抱き上げられて寝室に連れていかれてしまった。 「っもう、夏樹さんってばっ!だから俺は自分で……っ!」 「はいはい、話はまた起きてからね。今は寝る時間だよ~」  夏樹は文句を言う雪夜を抱き寄せ、ギュッと抱き込んだままドサッと横になった。   「わっ、あああの、だから、先に寝てくださいって……」 「俺は雪夜が一緒にいてくれないと眠れないの!ほら、寝るよ!雪夜と違って、俺はあんまり寝てないから……」 「……ぁ……す、すみません……俺が起こしちゃったから……」  そうだよね、俺は昼頃からずっと寝てたけど、夏樹さんは…… 「ん~……そういうこと。だから……責任取って雪夜は夏樹さんと一緒に寝て?お願い」  夏樹が珍しくちょっと甘えた声で雪夜の顔を覗き込んで来た。    あわわわ、夏樹さんが甘えてるっ!?  ズルい!今の顔はズルいですよぉおお!!  あ~もう!写真に収めておきたかったぁあああ!!    どうやら夏樹さんは余程眠たいらしい。  アンニュイな表情にとろんとなった瞳で見つめられるとドキドキする……  まぁ、夏樹さんにドキドキするのはいつものことだけど!! 「ゆ~きや?」 「ぅひゃいっ!!」 「……大丈夫?」 「だだだいじょうぶですとも!はい!もちろんです!問題ないです!」 「うん、じゃあ、おやすみ」 「おおおおやすみなさい!?」  夏樹はパニクっている雪夜のことなど気にする様子もなく抱き込むと、すぐに寝息をたて始めた。  胸がっ!ドキドキしてっ!……ネムレナイっっ!!  雪夜は興奮してこのまま朝まで眠れないだろうと思っていた。  だが、夏樹の寝息と心音が思っていたよりも心地よくて、結局雪夜も気がついたらまた眠りに落ちていた――……   ***

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