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夜明けの星 9-18(夏樹)

「雪ちゃん、これ見て~!」 「はーい!……ぇ?ええ!?」  裕也に呼ばれて顔を向けた雪夜が、お手本みたいな二度見をした。  そこには、こんもりと何かの上に積もった雪を器用に固めて作った巨大な雪のシュークリームがあった。 「わぁ~!シュークリームだぁ~!スゴイですね!」  雪夜が歓声をあげながら巨大シュークリームをじっくりと眺める。  うん、スゴイけれども、なぜシュークリーム? ***  夏樹はあれからしばらく雪夜を抱きしめたまま、他愛のない話をしていた。 「あの……夏樹さん。もう雪……解けちゃいましたか……?」  夏樹の話しをクスクス笑いながら聞いていた雪夜が、ふと思い出したように夏樹を見上げてきた。 「ん?まだ全然大丈夫だと思うよ?あれだけ積もってればね。それにまだそんなに時間経ってないし……行ってみる?」 「はい!雪遊びしてみたいです!」 「うん、そか……そうだね!雪遊びしようか!」 「はい!」  雪夜はさっきまで泣いていたとは思えないくらい元気に返事をすると、意気揚々とテラスへと向かった。  無理をしているようには見えない。  何か隠しているようにも……  でも、やっぱりさっきのあの表情は……気になる。   「あ、雪夜。ちゃんとマフラー巻いておかないと顔が寒いよ?」 「そうでしたっ!」 「おいで、やってあげる」  夏樹は不安を隠して雪夜に笑いかけると、マフラーをぐるぐるに巻き付けた。 *** 「――おいしそうでしょ~?」 「はい!こんな大きいシュークリームがあれば食べてみたいです~!」  裕也の作った雪のシュークリームは、無駄にクオリティが高い。  色がついていれば、遠くから見たら本物と見間違いそうだ……  昔はよくその謎のクオリティで下ネタに走っていたものだが……  雪夜や菜穂子がいる前では下ネタを封印しているらしい。 「あはは、雪ちゃんならそう言うと思ったよ。因みにこっちには~……エクレアがあります!」 「うわ~~~!こっちも大きい!!」  シュークリームの横には、これまた巨大なエクレアがあった。  うん、だからなんで?  お腹空いたってことですかね?  そういやそろそろ昼飯作らなきゃ…… 「暇だったからいっぱい作ってたんだよ~!あとはね~、こっちに……ちん……」 「!?」  下ネタ封印してなかったのか!?  ボーっとしていた夏樹は慌てて声のした方を振り返った。 「……すこうだよ~!」 「おお~!おいしそ~~!!」 「食べたことある?」 「えっと……大学?……で……沖縄旅行のお土産で……もらって食べたことがあった気がします!」 「そかそか。いろんな味のがあって美味しいんだよね~」  ……紛らわしいわっ!!  っていうか、何でそれ!?  裕也さんのチョイスがわかりません! 「何やってんだ?」  ひとりでズッコケている夏樹を見て、斎が苦笑した。 「いや、裕也さんはなんでお菓子ばっかり作ってるのかと……」 「あぁ、そりゃお前……雪ちゃんがお菓子好きだからだろ?」 「え?」 「因みに、裕也が作ってるやつは、子ども雪ちゃんになってた時にお土産でみんなが持って来てたやつだ」 「……あぁ……そういえばそうですね」  シュークリームとエクレアは入院中からのお気に入りだ。  ちんすこうは、だいぶいろいろ食べられるようになってから、浩二が仕事で沖縄に行ったお土産に買って来た。  でも、硬いから雪夜は食べるのをイヤがって……仕方がないので粉々にしてミルクに浸して食べさせたんだっけ……  他にも、よく見ると雪ダルマの横にプリンアラモードのようなものがあったり、ロールケーキのようなものも…… 「いつの間にこんなに作ったんですか……?」 「雪ちゃんを待ってる間。まぁ、デカいのはあのシュークリームとエクレアだけで、あとは小さいからな」 「いや、小さいけどクオリティは凄すぎません?っていうか、このプリンアラモード細かっ!」 「そうか?裕也にしては雑な方だろ」 「これで雑なんですか!?」 「お城とかSLとか作らせてみろ。凄いぞ?」 「なんでそんなスキル持ってるんですか……」 「知らん。まぁ、裕也だし?」 「なるほど」  裕也の謎スキルは、全て「裕也だから」で片付いてしまう。  なぜかそれでみんな納得するところがスゴイ。 *** 「それで、どうだったんだ?」  しばらく夏樹たちも一緒に遊んだあと、裕也たちに雪夜を任せて、夏樹と斎は昼飯を作りに一足先に中に入った。 「あ……まぁ……さっき泣いてたのは本人もよくわかってないみたいです」 「そうか。んで?」 「え?」 「他にも何かあったんだろ?」 「う~ん……なんでしょうね……?俺もよくわからなくて……」  泣き止んだあとの雪夜とのやり取りをかいつまんで話す。   「ふ~ん……?」 「俺が何か雪夜のトラウマを刺激するような言葉を言っちゃったんですかね……?」 「何でそう思う?」 「それは……」  夏樹自身、何がそんなに不安なのかわからない。  ただ、今の雪夜に戻ってから、ずっと……心に引っかかっている何かがあって……   「本当は他に言いたいことがあったのに、それを飲み込んで『大好き』って言葉で誤魔化したようにも思えるし……もちろん、みんなのことが大好きっていうのも嘘じゃないと思いますよ?それは雪夜の本心だと思います。でも……それだけじゃない気がして……」 「まぁ、それだけじゃないだろうな」 「ですよね……」 「とりあえず……」  夏樹と斎は、今後の雪夜への対応を考えつつ、手早く昼飯を作っていった。   ***

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