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夜明けの星 9-19(夏樹)

 雪遊びで大はしゃぎをした雪夜は、翌日は少し熱を出してダウンしていたものの、思ったよりも回復が早く、三日後にはもう普通に起き上がってリハビリもすることができた。  あれ以来、雪夜の様子に特に気になる点はなく、機嫌良く過ごしている。 「雪夜、お昼ご飯食べたら折り紙しようか!」 「あ、俺今日はがく先生と折り紙してきます!」 「え?今日?」 「はい!だから俺のことは気にせずに夏樹さんはお仕事頑張って下さいね!ご馳走様でした!」 「あ、うん……」  訂正。  気になることがあります!!  雪夜が俺と折り紙をしてくれなくなりましたっっっ!!!    熱が下がってからと言うもの、雪夜はほとんど学島のところに入り浸っている。    まぁ……俺に対して何か不満があるだとか、一緒にいたくないだとか……そういうことではないらしいが…… 「心配しなくても大丈夫ですよ。雪夜くんは元気です。……え?不満ですか?不満どころか、ずっと惚気話を聞かされてますよ。……いやいや、ダメですよ~!だから、何をしてるのかは秘密です!雪夜くんとの約束ですからね。少しの間だけですから、今は雪夜くんの好きにさせてあげてください。一生懸命頑張っているので……」  雪夜を心配して、一体何を話しているのか、どんな風に過ごしているのかを聞きたがる夏樹に、学島はそう言って微笑んだ。  自分でも、過保護過ぎるとは思うけどね……?  でも、雪遊びの時の雪夜の様子を考えると、心配するなというのは無理がある。  それに……そのことを抜きにしても、もうちょっと俺と一緒にいてくれてもいいんじゃないかなぁ~!?  夏樹さん寂しくて泣いちゃうよ!?  一緒に行こうとしたら、「夏樹さんは来ちゃだめです!」って怒られたし…… *** 「来ちゃだめって何でだよぉ~~!!」 「そりゃお前には来て欲しくねぇってことだろ?」  夏樹がデスクに突っ伏しながら叫ぶと、画面の向こうで、浩二が爪の手入れをしながら興味なさげに答えた。 「だから、何で俺は行っちゃダメなんですか!?」 「知るかっ!!っつーか、何で俺はさっきからお前の愚痴を聞かされてんだよ!?」 「いつも愚痴聞いてあげてるでしょ!?たまには俺の愚痴も聞いて下さいよぉ~~!」 「いや、俺も結構お前の愚痴聞いてると思うぞ?……まぁ、学ちゃんなら二人っきりでも安心だろうし、雪ちゃんもずっと向こうにいるんじゃねぇんだろ?」 「はい、リハビリと風呂食事睡眠の時にはこっちに戻ってきます」 「それなら別にいいじゃねぇか。……学ちゃんは少しの間だけって言ってるんだし、気が済むまで雪ちゃんの好きにさせておいてやれよ」 「ぅ゛~~……」  夏樹も、雪夜が学島と二人っきりになることに関しては別に不安はない。  他の兄さん連中と同じく、学島にとって雪夜は弟のような存在であって、恋愛対象ではないからだ。  問題は、二人が夏樹に隠し事をしているらしい、ということ。  少しの間だけって……いつまで?  気が済むまでって、どれくらいで済むものなの?   「あ~もう、気になるぅ~~!」 「よ~し、そんなナツには優しいお兄さんがいいものをあげよう!」 「なんですか?」 「ほれ、仕事だ」 「いらないです」 「いや『いらないです』じゃねぇよ!!今俺は仕事中なのっ!暇じゃねぇんだよっ!お前も仕事しろよ!!雪ちゃんにも言われたんだろう?『お仕事頑張って』って!!」 「……言われましたけど……雪夜がいないとやる気が出な~い……」  浩二は画面越しに、再びデスクに突っ伏した俺の頭を叩く真似をした。 「おいこら、だから仕事しろって!」 「え~?」 「仕事で忙しくしてれば、余計なことを考える暇もねぇだろ?時間が経つのなんてあっという間だぞ?」  浩二はそう言うと、何やら大量にデータフォルダを送ってきた。  そりゃ仕事に没頭していれば……グダグダ考えることはないかもしれないが……  一応浩二さんも心配してくれている……のかな?   「ん?ちょっと浩二さん!?さすがに多すぎじゃないですか?」 「キノセイキノセイ」 「あっ!ちょっと、自分の分まで押し付けて来てるでしょ!?」 「キノセイキノセイ。『夏樹さん、お仕事頑張って~』」  浩二が雪夜の声真似をして誤魔化した。 「全然似てなぁああああいっっっ!!――」  結局、何だかんだと浩二に愚痴りつつ、夏樹はひたすら仕事を片付けていった。 ***  

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