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夜明けの星 9-21(夏樹)
「これがいいかな~……」
別荘の近くにある巨大ショッピングモールに来た夏樹は、事前にリサーチをしていた店に脇目も振らずに直行すると、さっそくお目当ての物を見つけた。
ほとんど悩むことなく購入し、他にも必要な物だけをさっさと購入していく。
「早く帰らないと、雪夜が待ってるからね~……」
とはいえ、夏樹は久々の外出を楽しんでいた。
夏樹が別荘に引き籠っているのは、雪夜の傍にいるためだ。
子ども雪夜が夏樹にしか懐かなかったから、夏樹じゃなきゃダメだったから、付きっきりでいたわけで……
今のように夏樹がずっと付きっきりじゃなくてもいいなら、夏樹に引き籠っている理由はない。
かといって、別荘からだと職場までは少し遠い。
いくら学島が一緒にいてくれると言っても、雪夜を置いて丸一日留守にするのはさすがに……まだ雪夜も不安定なところがあるし、心配すぎて夏樹の胃が持たないので無理だ。
まぁ結局、何だかんだと理由をつけて傍を離れたくないのは夏樹の方なのかもしれない。
「雪夜とも買い物に来たいけど……ここは人が多すぎるかな……」
この辺りにはこういう大きなショッピングモールはないので、どうしても人が多い。
いくら今の雪夜が大学生だとしても、やっぱりあんまり人が多いところに急に行くのはハードルが高い気がする。
記憶がごちゃごちゃで精神的に不安定な状態では……
「ん?」
その時、学島から電話がかかってきた。
「さっき電話したばかりなのに……」
夏樹は、別荘を出る前に学島に「俺が『出かけてくる』と言った時の雪夜が……ちょっと動揺していたのが気になるんです。もし少しでも変わったことがあればすぐに連絡下さい」とそっと頼んでいた。
40分程前、モールに着いた時に連絡をした時には、今のところ雪夜に変化はないということだったはずだが……
何かあったのかと慌てて電話に出る。
「はい、夏樹です」
「あ、学島です」
うん、わかってる。
「雪夜がどうかしましたか?」
「はい、それが……」
学島が言うには、先ほどの電話のあとも雪夜は機嫌良く過ごしていたのだが、ちょっと目を擦って欠伸をしたと思ったら、急に何かスイッチが入ったようにキョロキョロし始め……
「夏樹さん……いない……もう帰って来る?」
「はい、もうちょっとしたら帰ってきますよ~。さっきお電話でお話したでしょう?」
「かえってくる……なつきさん……まぁだ?なちゅしゃ……はやく……かえってくりゅ……ろこ?なちゅしゃ、ろこ?」
と呟いたのだとか。
「あ~……それってまさか……」
「そのまさかです。今まさに……」
電話の向こうから、雪夜が「なちゅしゃああああっ!ろこぉおおお!?」と泣いている声が聞こえて来た。
「あらら……眠たくなったんですね。このところお昼寝しなくても大丈夫だったのに……」
雪夜はここ数日は、お昼寝をせずにずっと学島のところに入り浸っていた。
その分、夜寝るのが早かったが……
よりによって今日は眠たくなったようだ。
しかも、そのせいでちょっと不安定になっているらしい。
「わかりました。今から帰ります。あ、雪夜に代わって貰っても良いですか?」
「はい。雪夜く~ん!夏樹さんだよ~!」
「なちゅしゃぁあああっ!?」
雪夜が画面に飛びついて来た。
「おっと、はいはい、夏樹さんだよ~。どうしたの?眠たくなったの?」
「なちゅしゃ、ねんねぇ~……ろこぉおおお!?ゆちくん、ねんねぇえええ!!」
「うんうん、眠たいねぇ。夏樹さん、今から戻るからね。だから、ちょっとだけ待ってて?」
「ぁぃ……ひっく……っ……」
「大丈夫。もう買い物終わったから。すぐに戻るよ~」
「ぁぃ……」
雪夜は夏樹の顔を見て少し落ち着いたのか、泣き叫ぶのを止めて目を擦った。
夏樹は雪夜と話しながら、急いでモールを出た。
「このまま繋げておく?」
「うんうん」
雪夜が泣きべそをかきながらうんうんと頷く。
そこに、慌てた様子で学島が割り込んできた。
「え!?あ、ごめん、雪夜くん。ちょっと待ってね!?それもうすぐ充電が……」
「あ……――」
残念ながら、学島の携帯の充電が切れたらしく、いきなり通話が途切れてしまった。
あちゃ~……学島先生大丈夫かなぁ……
恐らく、急に夏樹の顔が見えなくなったので雪夜がパニクっているに違いない。
兄さん連中は入院中も付き添ってくれていたので、発作を起こした雪夜を宥めるのも慣れている。
だが、学島は普段はリハビリの時くらいしか一緒にいない。
リハビリの時は大抵夏樹が傍にいるので、何かあれば夏樹が対応している。
だから、学島だけでパニクった雪夜の相手をしたことはないはずだ。
ん?入院?
何かが頭にひっかかった。
いや、今はそれよりも……早く帰らなきゃ!
とりあえず帰りながら考えよう。
夏樹が慌ててエンジンをかけ、車を出そうとした瞬間、車の前に男が飛び出して来た――
***
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