596 / 715
夜明けの星 9-26(夏樹)
添い寝をしながら携帯を弄っていると雪夜がモゾモゾと動いたので、夏樹はスッと携帯を枕の下に押し込んで寝たふりをした。
別にふざけているわけではなく、雪夜の状態を確認するためだ。
薄く目を開けて様子を窺う。
まだ子ども雪夜のままなのか、子どもだとしても年齢に変化はあるのか、それとも、大学生に戻っているのか……
雪夜はガバッと起き上がると、寝惚け眼でキョロキョロして一瞬ボーっとし、ふぇ……と泣きかけて隣で寝ている夏樹に気付いた。
「……なちゅしゃ……ねんね……?」
雪夜は夏樹の頬をペタっと触ると、ふにゃっと笑ってゴロンと横になった。
しばらく夏樹の顔をペタペタしたり、夏樹の手を握ったりして遊んでいたが、
「なちゅしゃ……いるね~……ゆちくん、いっしょね~……うれち~ね~……」
と呟き、うふふっと笑って夏樹の胸元に抱きつくと、そのままスース―と寝息をたて始めた。
「……~~~~――っっ!!」
はい、この時の俺の気持ちを“10文字以上5文字以内”で答えなさい。
え?無理だろって?
そう、無理なんですっ!!!
俺よく声を出さずに頑張ったと思う……っ!!
そりゃね?子ども雪夜だった時には、こんな感じのはよくあったよ?
その時でも声を我慢するのは大変だったんだよっ!!
それが久々だと……ねっ!?
もう……無理っっっ!!
うちの子可愛すぎないですかっ!?
思いっきり抱きしめてもいいですかねっ!?
あ、起きちゃうからダメだな。
はい、我慢します……っ!!
雪夜が胸元に引っ付いているので、夏樹は雪夜を起こさないように、静かに心の中で悶えまくった。
***
ひとしきり悶えたあと……夏樹は先ほどの雪夜の言葉を思い返していた。
――「……ゆちくん、いっしょね~……うれち~ね~……」
可愛っ!……じゃなくて、やっぱり……俺がひとりで出かけるっていうのがイヤだったんだろうな……
前回夏樹がひとりで出かけた時、「夏樹が事故って入院したせいで帰宅出来なかった」ということはあの時の雪夜には理解できていなかったはずだ。
だが、たぶん「夏樹が出かけて戻らなかった」という記憶は薄っすら残っていて……それが幼少期の、ベッドの上から母親たちの背中を見送っていた時の不安や寂しさと重なったのだろう。
それにしても……“俺がひとりで出かける”ってことが雪夜のトラウマになってるのは困ったな……
俺が出かけるのがダメってことは、つまり、俺と離れるのがダメってことだ。
別に、今は無理に出かける必要はない。
兄さん連中がいろいろサポートしてくれるし、仕事もリモートで出来る。
ただ……そんな生活をこの先もずっと……というわけにはいかない。
雪夜の精神状態や身体の運動機能が安定してきて外に出られるようになってくれば、またマンションに戻って二人で生活していくことになる。
雪夜が出歩けるようになれば、少しずつ日常生活が戻って来るということだ。
日常生活に戻れば離れて過ごすことが増えて来る。
それがいつになるかはわからないが……
でも、いつかは……
「そんな日も来るよね……」
夏樹は雪夜をやんわりと抱きしめて、呟いた。
ん?待てよ?俺と離れるのがダメって……でも、ここ数日俺は雪夜に放置されてたよね?
まぁ、同じ別荘の中にいるっていうのがわかってたから離れても大丈夫だったってことかな?
……とすると、範囲を少しずつ広げて行って、俺が出かけても必ず戻って来るから大丈夫だって雪夜が納得できるようにしていけば……――
そんなことをいろいろと考えているうちに、いつの間にか夏樹も雪夜と一緒に爆睡していた。
***
ともだちにシェアしよう!