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夜明けの星 9-29(夏樹)

 夏樹が雪夜をしていたのはほんの少しの時間だったと思ったのだが、夏樹が雪夜を連れて戻った時にはもうほとんど料理は出来ていた。  今日の昼食は、数種類のスパゲッティ、肉野菜炒め、牛丼、天丼、天ぷらの盛り合わせ、刺身の盛り合わせ、味噌汁……という、和洋折衷のメニューだった。  夏樹と斎が作る時は、兄さん連中も何を出されても特に何も言わない。  だが、本職の隆がいる時は、兄さん連中は「あれが食いたい」「これも食いたい」と注文をしてくる。  今日も、兄さん連中が食いたいと言って来たものを作ったらしい。  隆は店以外では……というか、兄さん連中に作る時はあまり手の込んだものは作らないが、種類はいろいろ作ってくれる。「あいつらは質より量!」なのだとか。   ***  雪夜が別荘で療養するようになってからというもの、みんなで一緒に食事する時は食べるのが遅い雪夜に合わせて、兄さん連中もワイワイ楽しみながら時間をかけて食べるのが暗黙の了解になっているのだが、今日は…… 「兄さんたち、そんなに急いで食べても雪夜たちが食べ終わらないと貰えませんからね!?」  兄さん連中はあっという間に食べ終わり、ソファーで食後のコーヒーを飲んでいた。  だが、雪夜はまだ半分も食べ終わっていないし、菜穂子もまだ食べ始めたところだ。   「ナツはいちいちうるせぇなぁ。んなこと、わ~ってるよ!!」 「むぐっ!?ふ、ふみまふぇん(すみません)!……いほいへたべまふ(いそいでたべます)!」  夏樹と兄さん連中の会話を聞いて、雪夜が早く食べなきゃと焦って口いっぱいにカルボナーラ風うどんを詰め込んだ。 「あ~~!雪夜、違うんだよ。雪夜は急がなくていいから!ほら、よく噛んで!水飲んでっ!!」 「んぐっ!んぐっ!……ゲホッ!……っはぁ~……」 「大丈夫?」 「はい……すみません……」 「いや、雪夜は謝らなくていいんだよ。ごめんね、俺が焦らせるようなこと言っちゃったからだよね。あれは兄さんらに言っただけで、雪夜に早く食べろって言ってるわけじゃないんだよ」 「雪ちゃ~ん、ゆっくり食っていいからな?慌てなくていいぞ~!俺らが早く食べ過ぎただけだからな」  しょんぼりとうつむいた雪夜を見て、兄さん連中も慌てて声をかけてきた。 「え、でも……」 「雪夜、なお姉もまだ食べ終わってないでしょ?だから、焦らなくていいんだよ」 「そうそう。私も疲れてなかなか食べられないから、一緒にゆっくり食べようね~」  向かい側に座っている菜穂子が雪夜に笑いかけた。  茶目っ気たっぷりに言っているが、先ほどからうどんがほとんど減っていないところを見ると、疲れて食べられないというのは本当だろう。   「はいはい、雪ちゃんも菜穂子もあいつらのことは気にしなくていいから食べることに集中~!無理しなくてもいいけど、昨日からほとんど食ってねぇんだからちょっとは食っとけよ」  斎がパンパンと手を叩いて、食事に集中するように促した。 ***    結局、雪夜と菜穂子が食べ終わるのに30分程かかった。  それからしばらく休憩して、おやつ前にようやくお待ちかねの時間がやって来た。 「さてと、それじゃ雪ちゃん、そろそろ……」 「あ、はい!」  菜穂子と雪夜が段ボール箱を開けに行くと、兄さん連中がソワソワと立ち上がった。  ウロウロしながら咳払いをしたり、腕をあげて大きく伸びをしたり……  ちょっと兄さんら、落ち着いて!?  浩二さんは何で準備運動してるんですかっ!! 「……え~と、中身は一緒だから、どれを誰に渡しても大丈夫だね」 「はい!」 「それじゃ、誰からでもいいよ~。雪ちゃんの好きなように渡していって……」 「えっと……なお姉~……」 「ん?どうかし…………えっ!?」  箱の中から可愛くラッピングしたマフィンを取り出し、雪夜に渡していた菜穂子が、雪夜の戸惑った声に振り返って、一瞬目を大きく見開いて固まった――…… ***

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