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夜明けの星 9-31(雪夜)
雪夜は寝室へと夏樹を連れて来ると、入口でちょっと立ち止まった。
「あっ!」
「ん?」
「えっと、ちょっとここで待っててくださいね!?いいよって言うまで入って来ちゃだめですからね!?絶対ですよ!?……あ、覗くのもダメですよ!?」
「は~い」
夏樹に念押しをして、ひとりだけ先に部屋に入った。
雪夜の必死な顔に夏樹がちょっと苦笑していたが、今はそれどころではない。
え~と、え~と……
焦っているとすぐに行動に移せない。
することはわかっているのに、どれから始めればいいのかわからなくてちょっとその場で足踏みをしながらクルクル回った。
「あ、そうだ!」
パーカーの裾を捲って、お腹の辺りからラッピングしたマフィンを取り出す。
「潰れてないよね?よし!それから……え~と……」
パーカーの大きなポケットから、新しいラッピング袋を取り出した。
さっき段ボール箱を開けた時に、マフィンをラッピングした時の袋の余りを一枚なお姉にもらっていたのだ。
冬服はポケットも大きいし、重ね着をしやすいように夏樹が少し大きめのサイズの服を買って来てくれるので中にいろいろ忍ばせられるから助かる。
あ、マフィンはラッピングしてるし、服と服の間に入れてたから汚くないよ!?
ちょっと温もってるかもしれないけど……
って、それよりも!
「夏樹さんに待ってもらってるから、早くしないとっ!」
雪夜はベッドの下の自分用の衣装ケースを開けた――……
***
「お待たせしました!いいですよ~!」
「もう入っていいの?」
「はい!」
雪夜は、部屋の前に待たせていた夏樹を呼び入れるなりペコリと頭を下げた。
「すみません!あの、用意してから来てもらえば良かったのにお待たせしちゃって……ちょっと焦りすぎて順番間違えちゃった……」
「いや、それは全然いいけど……」
「あの、それとえっと、一番に渡せなくてごめんなさい!あのね?本当は夏樹さんに一番に渡したかったんですよ!?でもあの、……マフィンをラッピングする時に一緒にするつもりだったのに、俺バカだから、持って行くの忘れてて……」
「あぁ……うん。雪夜?」
「それでえっと、今急いで……」
「ゆ~き~や!」
「ラッピングを……え?」
グイッと夏樹に抱き寄せられて、夏樹の顔が近付いて来た。
「……っ!?」
キスされるのかと思って目を瞑ったものの、額にコツンと何かが当たったまま何も起こらない。
「……?」
そっと目を開けると、優しく微笑んでいる夏樹と目が合った。
「……いい子だから、ちょっと落ち着こうか」
「あ……は、はい……スミマセン……」
キスじゃなかった……うわ~~!!俺目瞑っちゃったしっ!!
恥ずかしぃいいいいい~~~!!!
「謝らなくていいよ。焦らなくていいからゆっくり、落ち着いて話して?ちゃんと聞くから。ね?」
「ひゃい……」
「ん?雪夜?どうしたの?」
「ななななんでもないですぅうう!!」
赤く火照った顔を手で隠そうとしたのだが、夏樹に手を掴まれて隠させて貰えなかった。
「もしかして、キス待ちだった?」
「ちちち違いますぅ~!!」
「ごめんごめん、可愛いな~と思って見入っちゃってた。そっか、キス待ちだったのか~!俺としたことがっ!」
夏樹さん、わざとらしいですよっ!
絶対確信犯じゃないですかぁ~~!!
「ちがっ!だから、待ってませんんん~~!!」
「え、待ってないの?キスしたくない?」
「キスはしたいですけどっ!!そうじゃなくて、えっと、待ってたわけじゃなくて……」
「うん……?」
「だから……あの……っ」
照れ隠しにわけもわからず捲し立てていたものの、夏樹が近距離でじっと見つめてくるので気が付くと夏樹の瞳に見入っていた。
夏樹さんの瞳、キレイだな~……
夏樹の顔が近付いてきて、口唇が軽く触れても、まだ瞳に見入っていた。
「……雪夜、そんなに見つめられると俺が照れちゃう」
「……ふぇ?」
夏樹がちょっと困ったような顔で笑った。
「ぅあっ!?ごごごごめんなさいっ!!」
慌てて顔を逸らし、下を向いたまま夏樹の胸元を押してちょっと後退った。
「いや、いいんだよ!?俺は嬉しいから。ただ、ちょっと……」
ん?
雪夜は夏樹の様子が何だか違う気がして、顔をあげた。
あれ?夏樹さん……ホントに照れてる?
ちょっと横を向いて片手で顔を隠している夏樹の耳が赤くなっている気がした。
「んん゛……あ~、えっと、それで、何だっけ?」
夏樹が誤魔化すように咳払いをして、雪夜に続きを促した。
「え?」
「だから、俺をここに呼んだ理由」
「あっ!そそそそうでしたっ!!」
夏樹さんに見惚れてる場合じゃない!
渡さなきゃ!!
「えっと、だから、あの……これを……」
雪夜はベッドに上がって、ラッピングしたマフィンを枕の下から取り出すと、夏樹に手渡した。
あれ?よく考えると、なんで枕の下なんかに隠したんだろう……
とにかく、どこかに隠さなきゃって思って……思わず……
でも、マフィンを渡すのは夏樹さんも知ってるんだし、隠す必要なんてなかった気が……!?
あっ!枕の重みで潰れてないよね……っ!?
何やってんの俺ぇええええ~~~!!
***
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