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夜明けの星 9-38(夏樹)

 4月も半ばになって、ようやく雪夜の体調が少し落ち着いてきた。  夏になると、暑すぎて外出が困難になる。  雪夜を外に連れ出すなら、春か秋が最適だ。  夏樹は斎と相談をして、何とか気圧の変動が少なそうな晴れの日を選んで出掛けることになった。 「熱はないね。頭痛とか吐き気はない?」 「はい!元気です!」  雪夜が片手をピンと上に伸ばして返事をした。 「まだ花粉は飛んでるみたいだし、マスクはしておいた方がいいけど……出来そう?」 「あ、ちょっと待ってください……はい!出来ました!」 「息苦しくない?大丈夫?」 「ス~ハ~……ス~ハ~……はい!ちょっと息苦しいけど息は出来ます!」  マスクをつけた雪夜が、少し深呼吸をしてから手を伸ばして返事をする。 「うん、雪夜、それ逆さまだね」 「えっ!?……あ、こっちが上になるのか……」 「雪夜にはちょっと大きかったね……次買う時はもう少し小さいサイズにしてもらおうかな」 「だ、大丈夫ですよ!あの、ほら、耳のところで調節すれば!」  ひとまず今日のところはこれで行くしかないので、雪夜の言う通りに耳にかけるゴムをくくって調節した。 「あとは~……お茶とお弁当とピクニックシートと……着替え……はもうさすがにいらないかな……念のために一枚持ってればいいか……」 「はい!一枚あれば大丈夫だと思います!」  夏樹が必要なものを口に出して確認していると、雪夜が真面目に答えてくれた。 「おい、ナツ!もういいんじゃねぇか?お茶も弁当もピクニックシートもその他の荷物も全部俺らが車に乗せたよ。あとはお前らだけだ。その調子じゃ、別荘から出る前に日が暮れるぞ」  呆れ顔の斎が夏樹の背中を軽く叩いた。   「あ(いて)っ……すみません、何か出かけるのが久々で落ち着かなくて……」 「お前が緊張してどうすんだよ」 「ですね……よし!それじゃ行こうか!」 「はい!」 ***  雪夜が今の状態に戻ってから、別荘の外に出たのはまだほんの数回。  別荘からマンション、マンションから別荘へと移動した時、そして、雪遊びの時とお花見の時だ。   雪遊びもお花見も、外に出たとは言っても別荘の庭だし、どちらもせいぜい数十分間程度……  ちゃんと外出するのは、今回が初めてということになる。  もちろん、そうと聞いて兄さん連中が黙っているはずがない。 「雪ちゃんが出かけるなら、俺らも一緒に行くからな!?だって今の雪ちゃんに戻ってから初めてのお出かけだぞ?一緒に行っていっぱい写真撮らなきゃ!!」  と、張り切っていた。  だが、計画を立てようにも、出かけられるかどうかは当日になってみないとわからない。  雪夜が前日の夜中にどれくらいうなされて、どれくらい寝不足になるかなんて、予測不可能だ。  子ども雪夜の時なら、少しくらい寝不足でも、疲れて眠たくなれば夏樹が抱っこすればよかったのだが、今の雪夜は照れてしまうし、なかなか自分から疲れていると言い出せずに無理をしてしまうので、寝不足だと出かけられないのだ。  そのため、とりあえず気圧と天気からおおよその日程を立て、その日の朝雪夜の体調が良ければ出かけようという話しになった。  そして、今日。  雪夜は昨夜は珍しくほとんどうなされずによく眠れて、朝も体調が良さそうだった。  天気もいいし、出かけるには最高の状態だ。  ただひとつ、残念なのは……今日はもともと出かける予定ではなかったため、兄さん連中はほとんど都合がつかなかったこと。  仕方がないので、ちょうど昨日から別荘に来ていた斎、裕也と、夏樹、雪夜、学島の5人で出かけることになった。    まぁ、今日は初めての外出なのでひとまず雪夜を外にことが目的だ。  夏樹たちは別荘の近くにある広い運動公園へと出かけることにした。 ***

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