610 / 715

夜明けの星 9-40(夏樹)

「夏樹さ~~ん!危な~~い!」 「ん~?おっと……」  撮った写真を確認していると、雪夜の叫び声が聞こえた。  夏樹は顔面に飛んで来たゴムボールを片手で受け止めて、立ち上がった。 「ちょっと!どっちが投げたんですか!?今これ絶対狙ったでしょ!?」  どっちとは、もちろん斎と裕也に向けた言葉だ。  夏樹が座っている場所よりも、雪夜たちが遊んでいる場所の方が低い位置にある。  夏樹にボールが当たるようにするには、狙って投げないと無理があるのだ。  こんなことをするのは、兄さん連中しかいない。 「おまえが暇そうだから仲間に入れてやろうと思ってな。サッカーボールじゃないだけ優しいだろ?」  犯人は斎さんか! 「ほら、早く投げろよ~」 「お気遣いどぉ~~~~もっっっ!!」  夏樹も思いっきり投げ返した。  こちらの方が高い位置にいるので威力はそれなりにあるはずだが、斎は余裕で受け止めると爽やかに笑った。  くっそぉ~!もうちょっと回転かければ良かった……  まぁ、どっちにしても普通に受け止められると思うけどっ!? 「ところで、ひと段落着いたんなら、お昼ご飯にしませんか~?」  夏樹は、ふんっ!と鼻を鳴らすと、斎に向かって腕時計を指差して見せた。 「お~?あぁ、もうこんな時間か。んじゃ昼飯食うか~!」 「はーい!」 ***  公園では、雪夜のリハビリを兼ねて、別荘のリハビリルームでは出来ないようなボール遊びや追いかけっこなどの簡単な遊びをすることになっていた。  学島が、雪夜だけが不利にならないようなルールをいろいろと考えてくれて、頑張れば雪夜にも勝てるチャンスがあるようにしてくれたおかげで、兄さん連中も結構本気でやっていたし、雪夜も楽しんでいた。   「夏樹さ~ん!ただいまです!」 「お帰り。お疲れさん!楽しかった?」 「はい!」 「そかそか。良かったね~!」  息を弾ませて戻って来た雪夜を抱きしめて、頭にタオルを被せた。   「ほら、ちゃんと汗拭いて!風邪引いちゃうよ」 「は~い!夏樹さん、スゴイですね!」 「ん?何が?」 「だって、ボール片手で取っちゃった!俺ね、夏樹さんが俯いてたからね、当たっちゃうと思ったんですよ。それでね、危な~いって言ったんですよ?」  雪夜がタオルで汗を拭きながら、興奮気味に話してくれた。 「うん、聞こえたよ。ありがとね、誰かさんたちと違って雪夜は優しいなぁ~」  そして可愛い。  夏樹は雪夜を抱きしめ直すと、頭に頬をグリグリと押し付けた。 「あはは、あ、待って夏樹さん、まだそこ拭けてないかもっ!っていうか、俺いま汗臭いからダメっ!」 「ん?大丈夫だよ?」 「お~い、そこの二人。とりあえず座れ。昼飯食うぞ~」 「あっ!そうだ、お昼ご飯!お弁当~!」  雪夜は、斎の声に夏樹からパッと離れると、慌ててピクニックシートに座った。    え~……弁当に負けた……   「夏樹さん!お弁当食べましょう!」  雪夜がニコニコしながら夏樹を見上げて、自分の隣をパンパンと叩いた。 「……うん」  雪夜が当たり前のように隣に呼んでくれる、そんなちょっとしたことが嬉しくて……  そんなちょっとしたやり取りで幸せを感じられる。  俺も結構お手軽だよな~…… 「そうだね、食べようか!」  夏樹は自分に苦笑しつつ、満面の笑みで雪夜の隣に座った。     ***

ともだちにシェアしよう!