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夜明けの星 9-50(夏樹)

「あの……夏樹さん」  夏樹と手を繋いでいた雪夜がギュッと身体を寄せて来て、口元に手を添え夏樹を呼んだ。   「ん?どうしたの?」  ちょっとかがんで雪夜に耳を差し出す。 「あのね、どうしよう……俺……こんな大事(おおごと)になるとは思わなくて……」  雪夜が困惑した声で耳元で囁いた。  兄さん連中の様子を見ながら、だんだんと不安になってきたらしい。 「あぁ、気にしなくていいよ。あれは兄さん連中がやりたくてやってるだけだからね」 「でも……俺が花火見たいとか言っちゃったから……」 「みんな雪夜と一緒に花火を楽しみたいだけだよ。そのために必要な準備をしてるだけだから、雪夜は「ありがとう」って言って、あとは思いっきり花火を楽しめばいい。それだけでいいんだよ」 「……はい……」  雪夜が表情を曇らせたまま頷いた。  うん、まぁ……普通はこんなことになるなんて思わないよね……  どうしたものか……と、ちょっと頬を掻いてキョロキョロと周囲を見回した。   「雪夜、おいで」  夏樹は近くの段差に腰かけると、雪夜を膝に抱き上げた。 「あのね、雪夜は兄さん連中の好意は遠慮せずに受け取ればいいんだよ。その方がみんなは喜ぶから。もし雪夜がそれじゃ納得できないなら、お礼に今度兄さん連中に折り紙を折ってプレゼントするとか、卵焼きを焼いてあげるとか、雪夜が出来ることをしてあげればいい」 「折り紙……喜んでくれる?」  雪夜が訝しげに夏樹を見た。 「もちろん!そりゃもう、兄さん連中泣いて喜ぶよ!」  夏樹がちょっとおどけた顔をして笑うと、雪夜もつられてフフッと笑った。  実際、雪夜が折った折り紙を別荘中に飾ってあるのだが、毎回兄さん連中に「これもらってもいいか~?」と聞かれるのだ。  雪夜がリハビリに毎日折っているため、増えすぎると飾り切れないので、そろそろ古くなったものから兄さん連中にあげてもいいか雪夜に聞こうと考えていたところだった。 「そっか……折り紙か~……」  雪夜がちょっと唸った。  さっそく何を折ろうか考えているらしい。 「あ、でも、無理に楽しんでるフリなんてしなくていいからね?」 「……え?」 「兄さん連中に気を使って無理に笑わなくてもいいよってこと。それに途中で具合が悪くなったらすぐに俺に教えてね?」 「……はい!」  雪夜はちょっと考えた後、ニコっと微笑んだ。 「よし、いい子だ!花火楽しみだね~!」 「はいっ!」  夏樹は雪夜を抱きしめながら、兄さん連中が手際よく花火見物の準備をする様子を眺めた。    暗くなる前にお弁当食べ終わっておきたかったけど……あれだけの投光器があれば大丈夫かな……?  むしろ、昼間よりも明るくなる気がする…… ***

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