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夜明けの星 9-51(夏樹)

 花火見物に行くことが決まってから、兄さん連中の動きは素早かった。  恐らく斎と夏樹が話している間に、すでに必要な物をリストアップして、それらの入手方法も決まっていたのだろう。  花火見物をするにあたって、一番必要なものは「灯り」だ。  以前、佐々木たちと花火見物をした時も、ランタンを何個も用意して、ピクニックシートの周りを囲んだ。  夜、暗闇、大きな音……花火見物は雪夜のトラウマを刺激する要素が多い。  でも、それでも…… 「よ~し、準備出来たな。じゃあ点灯するぞ~!」  斎がパチッとスイッチを入れた瞬間、まばゆいくらいの光が屋上を照らした。 「ちょっと眩しすぎか?う~ん……何個か減らしてみるか」  設置した投光器をすべて点灯すると眩し過ぎたので、ちょっと個数を減らしたり、向きを変えて調節する。 「これくらいなら大丈夫だろう。どうだ?」  斎が雪夜と夏樹を見た。 「お~!すご~い!明るいですね!!」  段々と暗くなってくる空に緊張して夏樹にぎゅっと抱きついていた雪夜だったが、投光器が点灯した瞬間ほっと息を吐いた。 「雪夜、眩しくない?大丈夫?」 「大丈夫です!これだけ明るいと、みんなの顔もハッキリ見えますね!」 「そうだね」  雪夜がにっこり笑ったのを見て、兄さん連中も顔を綻ばせた。 「よし、そんじゃ飯食うか~!腹減った~!」 「はいはい、んじゃ弁当出すからそこ空けろ~!」 「は~い!雪ちゃんたちもこっちおいで~!」  兄さん連中は早速シートに座ると弁当を食べる準備を始めた。 「雪夜、お弁当食べようか!」 「はい!」 ***  なんせ花火見物は急遽決まったので、食材の買い出しも慌ただしく、時間の都合で弁当の内容もそんなに凝ったものは作れなかったが、その代わり…… 「はい、兄さん方に朗報。今日のお弁当のおにぎりは全部雪夜がくれました~!」 「「おお~!?」」 「というわけで、味わって食ってくださいね!」 「全部作ったのか!?結構あるぞ!?……っていうか、デカいな!」  浩二がシレっとおにぎりの入った袋を自分の方へと引き寄せる。  一個がデカすぎるのと丸い形のせいでお弁当箱には入りきらなかったので、おにぎりはおにぎりだけビニル袋に入れて持って来たのだ。 「わかっていると思いますが、みんなの分ですからね?浩二さんひとりで食おうとしないでくださいね?」  夏樹は浩二の手をペンっと叩いて袋を取り返すと、二個だけ浩二に渡して残りは他の兄さん連中に回した。 「え~、すごいね!全部雪ちゃんが作ってくれたの~!?」 「はい!あの……形はちょっと(いびつ)なんですけど……ちょっと大きすぎちゃったし……食べるのが大変かもしれない……すみません」 「「全然大丈夫!上手に作れてるよ!!いただきま~す!」」  兄さん連中が嬉しそうにおにぎりにかぶりついた。  ――数時間前、花火見物のためにみんなが忙しなく動いているのを見て、雪夜が「俺も何かお手伝いしたいです」と言ってきたので、夏樹は雪夜におにぎりを任せた。  花火見物が事前に決まっていて、もっと時間があれば、それこそ雪夜に卵焼きを任せても良かったのだが、なんせ今日は時間がなく、スピード勝負だったので……  おにぎりは、ご飯に混ぜご飯の素を混ぜ込んで、ラップで包んでぎゅっと握るだけだ。  三角に握るのは難しいが、なんとなく丸っぽく握るのは雪夜でも出来る。   とはいえ、炊きたてのご飯を握るのは大変だっただろうと思う。  素手では熱すぎて持つことも出来なかったので、ラップで包んでから更にタオルで包んで握るなど雪夜なりに工夫していた。  因みに、デカさについては……  夏樹も後で確認してビックリした。おにぎり一個の大きさがそれぞれ多少の差はあれどもソフトボール大くらいあったからだ。  でも…… 「すみません……ご飯が熱すぎていっぱい握るのは無理だと思ったので一個をデカくしちゃいました……」  という、デカいおにぎりを作った理由に笑ってしまった。  うん、これも雪夜なりの工夫の一つだね。  まぁ、時短にもなるし、どうせ兄さん連中はこれくらいペロッと食べちゃうので問題ない。 「食べるのがもったいないな~!」 「あ、待って、記念に写真撮っておこう!」  兄さん連中の希望で、集合写真を撮る。  みんなでデカいおにぎりにかぶりついている写真は結構インパクトがあった。  大きすぎたかも……と心配していた雪夜だったが、みんなが「美味しいよ!」と一個目をペロリと平らげたのを見て安心したようで、ようやく自分も食べ始めた。  ところが、すぐに雪夜がちょっと困った顔をした。  雪夜はおにぎりを作ることに必死で、気がついたら自分用のおにぎりまでデカくしてしまっていたのだ。  一個が雪夜が普段食べる量の倍以上ある。  普通に考えて、このおにぎりを一個全部食べるのは無理だ。 「雪夜、おにぎり半分に割ろうか?」 「……あ、えっと……ちょっと頑張ってみます!自分で作ったし!」 「お~、いいぞ~!」 「がぶっといっちゃえ~!」  雪夜はちょっと躊躇していたものの、周囲からの謎の応援を受けて、兄さん連中を真似てかぶりついた。 「あはは!雪ちゃんが食べると顔が隠れちゃうね~!」 「ホントだ、おにぎりしか見えない!」 「ふぁ?」  おにぎりがデカすぎて、雪夜の顔がほとんど隠れてしまったのだが、それはそれで可愛い、と兄さん連中の目尻が下がった。 「はは、まぁ食べられるだけ食べればいいよ。無理だったら残していいからね?」 「ふぁ~い!」  雪夜がモグモグしながら、うふふっと嬉しそうに笑う。  夏樹はそんな雪夜に苦笑しつつ雪夜の頬についたご飯粒を取って食べ、自分もおにぎりにかぶりついた――   ***

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