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夜明けの星 9-52(夏樹)
佐々木たちと一緒に花火を見た時、雪夜は「遠足に行ったことがないから友達と外でお弁当を食べるのはこれが初めてで……」と、とても嬉しそうだった。
今では、大勢で食事をするのは珍しいことじゃなくなったし、外遊びに行くようになってからは、ほぼ毎日ピクニックだ。
兄さん連中とこうやって外でお弁当を囲むのも特別なことじゃなくなっている。
それでも、雪夜は毎回みんなとの食事が嬉しそうで、今日も兄さん連中の他愛もない話しを聞きながらニコニコ笑っていた。
「あれ?今なにか音しなかったか?」
「え?もしかして始まったか?」
「今何時だ~?」
「もう過ぎてるじゃねぇか!花火どこだ~!?」
みんな話しに夢中になっていたせいで、花火のことを完全に忘れていた。
気づいた時には、開始時間を少し過ぎていた。
慌てて立ち上がり、花火を探す。
「え~と、あっちの方向に見えるはず~」
「「あっち?」」
裕也が指差す方向を一斉に見て、首を傾げる。
「ねぇぞ?」
「待ってたら見えるよ。まだ始まったばかりだし。あ、ほらほら、上がった!」
「え?」
「お~……お?」
「「ちっっっっさ……」」
みんながボソリと呟いた。
「……」
一瞬の沈黙の後、一斉に吹き出した。
「「ブハッ!!なんだありゃ!!」」
「嘘だろ!?月かと思ったわっ!!」
「おい、ユウ~!あれどういうことだよ~」
「だから花火は小さいよって言ったでしょ~!?」
「いや、そうだけどよ~?」
「今のってもともと小さい花火だったのか?」
「いや、そこまで小さいやつじゃねぇだろ~?」
好き放題言っている兄さん連中に、慌てたのは雪夜だ。
「あの、あの、ごめ……」
「ゆ~きや!ほら、おいで」
夏樹は雪夜の言葉を遮って抱き上げると、花火がもっとよく見える位置に移動した。
「あの、夏樹さん……俺みんなに……その……」
「謝らなくていいんだよ」
「……え?」
「この場所に決めたのは裕也さんたちだし、他の兄さん連中も別に文句を言ってるわけじゃないよ。ほら見て?みんな笑ってるでしょ?ちょっとふざけてるだけだよ」
「でも……みんなはもっと近くで見られるのに……」
「ん~……花火はもちろん近くで見た方が迫力もあっていいけど、今夜は花火がメインじゃないからね~」
「花火がメインじゃないんですか?」
「兄さん連中は、雪夜と一緒にワイワイしながら花火を見たかったんだよ。だから花火の大きさはあんまり関係ないんだよ」
たしかに、ここは花火会場からだいぶ離れているので会場や周辺で見るのに比べれば花火は小さい。
が、月と間違えたというのはさすがに浩二の冗談で、実際はもっと大きくハッキリと見えている。
音はほとんど気にならないくらいで、兄さん連中の声の方がでかいくらいだ。
裕也が探し出してくれたこの場所は、今の雪夜が見るには絶好のポイントなのだ。
「だから謝る必要はないんだよ。あ、ほら、いっぱいあがったよ!!」
「え!?……わぁ~……」
佐々木たちと見た時は会場に近かったので、雪夜は花火の大きさや迫力に驚いて感動していた。
近いせいで音も振動もかなりあったが、そんなことが気にならないくらい感動して見入っていた。
今回は振動も感じないくらい遠いので、あまり迫力はない。
だが……
「……」
花火を見た雪夜は、一度「わぁ~」と吐息交じりに声をあげた後は口を開けたままジッと花火に見入っていた。
初めて花火を見た時と同じ反応。
この数年間、幼児退行していた雪夜にとっては、この花火が初めて見る花火のように新鮮なのかもしれない。
ん?いや何言ってんだ俺。
新鮮なのかも……じゃなくて、新鮮なんだ!!
だって、雪夜にとってはこの花火がまだ人生で二回目なんだから……
花火なんて夏になればあっちこっちであがるし、何かのイベントやテーマパークなど花火を見るタイミングなんていくらでもある。
だから夏樹たちにとっては花火は特別なものではない。
だけど、雪夜にとっては……
「……きれい……」
雪夜が花火に顔を向けたまま、夏樹の服を握りしめた。
「うん、そうだね」
夏樹は花火に見入っている雪夜の横顔に口元を綻ばせつつ、トントンと優しく背中を撫でた。
「雪ちゃんどうだ~?花火見えてるか~?」
「あ、ここからだとハッキリ見えるな~」
「なんだよ、ここにシート敷けば良かったんじゃねぇか」
「椅子持ってこよ~椅子!」
雪夜が花火に夢中になっていると、兄さん連中がわらわらと大移動してきた。
「ナツ、ほれ、椅子」
「あ、すみません」
雪夜を抱っこしたまま、斎が持ってきてくれた椅子に腰かける。
兄さん連中も夏樹と雪夜の周りに椅子を置いて座ると、後は雪夜の邪魔をしないように適当にお菓子をつまみながら花火を見ていた。
***
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