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夜明けの星 9-55(夏樹)

「っと……ん?」  雪夜をベッドに寝かせて起き上がろうとした夏樹は、胸元の違和感にふと動きを止めた。  雪夜が夏樹の服をしっかりと握りしめているせいで、それ以上起き上がれなかったのだ。  そして…… 「っ!?……えっ……と……どしたの?」  視線を落とすと、雪夜の大きな瞳と目が合った。  眠ったと思っていたのでちょっと驚いて一瞬言葉に詰まる。  どうやら夏樹が起き上がる気配で目が覚めたらしい…… 「……め……」 「ん?」 「……だめ!だめっ!ここっ!」  雪夜が服を握っていない方の手で自分の隣をポンポンと叩いた。    そっち……?そっちってどっち?    少し気にかかるが、その前に雪夜の仕草について考えないと……  自分の隣を叩くということは…… 「……もうちょっと隣にいてってこと?」 「ちっが~ぅのっ!」  激しく頭を横に振った雪夜が、眉間に皺を寄せて頬を膨らませる。 「え、違うの?」  どうやら夏樹の返答は全然見当違いだったらしい。  いや、でも……他にどんな意味があるんだ? 「こ~こ!」  戸惑う夏樹に、雪夜はもう一度隣をポンポンした。  だから、その仕草って……隣にいろってことじゃないの?   「う~ん……えっと……ごめんね、わからないから教えて?俺はどうすればいい?雪夜は俺にどうしてほしいの?」  夏樹は「隣にいて」以外の意味を思いつかず、早々に降参することにした。  いくら考えても、わからないものはわからない。  そういう時は、さっさと降参して答えを聞くに限る。 「ぅ゛~~……じゅっと!こ~こ!」  雪夜が小さく唸り、顔をしかめながら隣をバシバシと強く叩いた。 「あぁ……隣にいてってこと?」  夏樹を見つめたまま、険しかった表情を少し緩ませてうんうんと頷く。  「もうちょっと」じゃなくて「ずっと」……ってことね。    思わず顔がにやけそうになって、慌てて手で口元を覆った。 「んん゛、そかそか……うん、もちろん隣にいるよ。どこにも行かない。俺はいつだって雪夜の隣にいるからね!」 「……じゅっとよ?」 「うん、ずっとね。雪夜が眠ってる間も、起きてからも、ずっと隣にいるからね……だから、安心して眠っていいんだよ?」 「ん……」 「じゃあ、俺と一緒に眠ろうか!」 「……ぁぃ……」  夏樹が横になって雪夜を抱き寄せると、雪夜はホッとしたように息を吐いて夏樹の胸元に顔を押し付け、また目を閉じた。  すぐに聞こえて来る規則正しい寝息……  さっきのは寝ぼけてたのかな……? 「大丈夫、傍にいるよ……いつだって――……」  雪夜の頭に口付けながらそっと囁く。  夏樹の服を握りしめていた手は緩んでいるので、もう外すのは簡単だ。  でも、離れようとするとまた目を覚ますかもしれないので、夏樹は横になって雪夜を抱きしめたまま、タブレットを弄っていた。  そうやって仕事をするつもりだったが、結局いつの間にか夏樹も雪夜と一緒に爆睡していた…… ***

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