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夜明けの星 9-56(夏樹)
雪夜は、2日後には熱も下がって元気になった。
「よし、熱は下がってるね。大丈夫?まだダルイ?」
「ねつ……?」
まだ寝ぼけているのか、眠たそうな目でボーっとしながら首を傾げる。
「うん、熱があったから2日間寝込んでたんだけど……覚えてない?」
夏樹が微笑みながら雪夜の目にかかった髪を指で払うと、雪夜がその指を追うように少し頬を摺り寄せてきた。
無意識なんだろうけど……ホントそういうとこっ!!
「ん~……ねこんで……?……あれ?……え、じゃあ花火はっ!?」
急に覚醒した雪夜がパッと顔をあげた。
「花火?」
「っあ……いえ……あの……何でもな……」
一瞬、花火の何を聞いているのかわからず夏樹が首を傾げると、雪夜が困惑顔で視線を泳がせた。
「残念だったね」
「……え?」
「雪夜途中で寝ちゃったから一番盛り上がるところ見逃しちゃってたよ」
「見逃した……って……え、花火……ですか?」
「うん、花火。最後が一番盛り上がるんだけど、その前に寝落ちしちゃったんだよね」
「……ねおち……はなび……ゆめじゃなかった……」
雪夜が放心したように呟いた。
あぁ、なるほど。
夢ね……
寝込んだせいで花火を見たのが夢か現実かわからなくなってるのか。
そういえば、初めての花火の時も熱が出たんだっけな……
「夢じゃないよ。ちょっと待ってね~?……ほら、おいで。写真も動画もいっぱい撮ってるんだよ。一緒に見ようか」
夏樹は雪夜を抱き寄せると、タブレットで花火の時に撮りまくった写真や動画を見せた。
「わぁ……ホントだ……」
「この特大おにぎり覚えてる?誰が作ったんだっけ?」
「ぅわっ!でっかい!……あっ!えっと……これ……俺が作ったんですよね?」
「そうそう。雪夜が作ってくれたんだよ。みんな美味しいってペロッと食べちゃったよね」
「こんな大きいのに……あ、みんなおにぎり持ってる!」
「うん、せっかく雪夜が作ってくれたからって、みんなで記念に写真撮ったんだよ」
「……そうだっ!そうでしたね!……」
写真や動画のおかげでようやく花火が現実だったと実感出来た雪夜は、嬉しそうに花火の時の写真を繰り返し見ていた。
「さてと、そろそろ朝ご飯食べに行こうか。それは後でまたゆっくり見ていいからね」
「あ、はい!」
***
朝食後、今日はまだ病み上がりだからと、軽くストレッチだけをしてリハビリを終えた。
「雪夜?折り紙するの?」
リハビリの後、シャワーを浴びて着替えた雪夜は、いそいそと折り紙がいっぱい入っている箱を取り出した。
「あ、えと……あの……お兄さんたちにお礼したいなって……あの、折り紙がいいんじゃないかって夏樹さんが……」
「あ~……」
そういえば、兄さん連中には折り紙でも折って渡せば喜ぶよって言ったの俺でしたね……
でも、雪夜お手製のおにぎりでかなり喜んでたから、たぶん兄さん連中はもうあれで十分だと思うけど……
「でも、おにぎりは丸めただけですし……」
「そんなことないよ。熱々のご飯をたくさん握るのは大変だったでしょ?雪夜の愛情がたっぷり入ってたから兄さん連中も格別美味しいって言ってたよ!」
「そか……だったら俺も嬉しいんですけど……」
雪夜がちょっと照れ笑いをした。
「うん。だから、折り紙はそんなに急がなくてもいいよ。雪夜の体調に合わせて折っていけばいいからね?」
「はい!」
「それで、どんなのを折ろうと思ってるの?」
「あのね、えっと、もうすぐ秋?だから、あの……きのこ!!」
きの……こ……?……へぇ~……
「きのこ……可愛くないですか?あの、これなんですけど……」
雪夜のきのこが可愛いのは知ってるけど……?
って、何言ってんだ俺は!!
思わず頭の中で自分にツッコむ。
夏樹がそんなことを考えているとは露知らず、雪夜が不安そうにタブレットの画面を見せて来た。
画面には、某ゲームに出てきそうな、普通に山に生えていたら毒きのこ確定のカラフルなきのこの折り方が……
うん、知ってた!!知ってたよ!?雪夜が言ってるのは邪 な方じゃないってわかってた!!
軽く片手で額を押さえる。
「あ、あの……こっちのどんぐりとかの方がいいですか?でもどんぐりとか栗とかは茶色ばっかりだから地味かなって……あ、それかこっちのお花とか?でもこっちはちょっと難しそうだから……」
「んん゛、いや、ごめん。ちょっと意識飛んでた」
「え……あ、すみません。考え事してましたか?」
「いや、くだらないことだから大丈夫!」
ホントにくだらない……ダメだ俺、疲れてるのかな……
「くだらないこと……ですか?」
うん、そんな無垢な瞳で見つめられると、いろいろキツイ……
思わず笑顔が引きつりそうになって、慌てて顔の前で軽く手を振って切り替える。
「気にしないで!!全然どうでもいいことだから!!それより折り紙だよ!!ごめんね、話してくれてるのにボーっとしちゃって……え~と、うん、そうだね、栗は茶色だからちょっと地味だね!俺もきのこがいいと思うよ!!カラフルなのが出来そうだし!……あ、そうだ!折り方教えてくれたら俺も一緒に折るから、兄さん連中に渡す分のついでにいっぱい折って壁にきのこ貼り付けようか!」
「あ……えっと……は、はい!よ~し!頑張って折り方覚えますね!」
雪夜は、夏樹が急に勢いよく喋ったのでちょっと呆気に取られていたものの、すぐににっこり笑って意気揚々ときのこを折り始めた。
「うん、それじゃ俺は飲み物持って来るね!」
「は~い!」
***
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