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夜明けの星 9-58(夏樹)
「あ、えっと、夏樹さん歩けますか?」
立ち上がろうとした夏樹に雪夜が手を差し出してきた。
「もちろ……あ……やっぱり無理かも」
その手を掴んで立ち上ろうとして……ちょっと魔が差した。
病み上がりの雪夜に気を使わせて、何やってんだとは思う……
でも、どうせなら……雪夜が頑張ってくれている時は、もうちょっと甘えてしまおう……なんちゃって。
「えっ!?歩けない!?あ、立てませんか!?」
「うん、だから、ちょっと助けて?」
「わ……わかりました!どうぞ!!」
「……えっ!?」
雪夜が真剣な顔で夏樹に背中を向けてしゃがんだ。
もしかして……おんぶしてくれるの!?
ちょっ……その心意気はとっても嬉しいし男らしくて惚れちゃうんだけど……
いや、どう考えても無理だからっ!!
座り込んでいる夏樹を両手で引っ張って起こすだとか、歩く時に肩を貸すだとか……夏樹が期待していたのはその程度のことで……
まさかおんぶしようとするとは……
雪夜の行動に面食らいつつも、華奢なその背中にのしかかる。
「じゃあ、立ちますよ~?よい……っ……っっ!!ふんっ!!……ん゛~~~っっ!!」
立ち上がりかけて雪夜が固まる。
因みに夏樹は半分も体重をかけてはいない。
うん、こうなるよね~。
そりゃそうでしょ。
体重差も身長差もあるんだし、何より雪夜はようやくひとりで走ることが出来るようになったところなんだから……足元ふらふらだしね……むしろよく踏ん張ってると思う。
夏樹の腕の中にすっぽりと入ってしまう身体が……ちょっと力を入れると折れてしまいそうなこの背中が……夏樹のために頑張っていると思うとたまらなく愛しくて顔がにやける……
雪夜がこっち向いてなくて良かった……
「ちょっ、ちょっと待ってくださいね!?一旦戻りますっ!」
「ん?あ、うん」
戻るも何も全然上がってないけど……
「……あ痛っ!……ふぅ……」
一旦力を抜いた雪夜は、その反動でペタンと尻もちをついた。
踏ん張ったせいで膝がガクガクと震えている。
一応そんなに負担はかけないようにしたつもりだが……夏樹が思っていたよりも頑張ってしまったらしい。
が、雪夜は何事もなかったかのように一息ついて、笑顔で振り返ると「すみません、やっぱり無理でした!」と謝って来た。
「ぶはっ!!……ははは、だよね!?」
雪夜があまりに爽やかな笑顔で言うので、笑いを堪えきれなかった。
「あの、俺じゃ無理だから、がく先生にでもお願いして……」
「あ~、いや、大丈夫!ごめん、ちょっとふざけただけ。まさか雪夜がおんぶしてくれるとは思わなかったから……ははは」
「ええ~!?だって、夏樹さんが歩くの無理って言うから……」
「うん、そうだよね。俺が言ったから頑張ってくれようとしたんだよね、ありがとう」
「おんぶなら出来そうな気がしたんですけど……」
雪夜が腑に落ちないという顔で首を捻る。
ん~、どこからその自信が出て来たのかな……?
「すみません、俺、もっと鍛えて夏樹さんをおんぶできるように頑張ります!」
「いやいや、その気持ちだけで十分だよ!?」
雪夜はムキムキになんてならなくていいから!!
っていうか、ならないでっ!!
***
「それより雪夜、ちょっと来て」
ようやく笑いがおさまってきた夏樹は、雪夜に手を伸ばして抱き寄せた。
「え、ど、どうしたんですか?」
「ん~?雪夜チャージ」
「チャージ?」
「うん。いつも言ってるでしょ?雪夜をギュッてしてたら元気になれるんだよって。だから、ちょっとだけギュッてさせて?お願い」
「……元気……じゃあ、俺もチャージしていいですか?」
「ん?」
そう言うと、雪夜もギュっと抱きついてきて、夏樹の肩口にグリグリと顔を埋めてきた。
んん゛!?え、やだ雪夜さんってば、誘ってる?
「……あのね……俺、ずっと夏樹さんに言ってなかったことがあるんですけど……」
「っえ!?な……なぁに?」
そっと雪夜の首筋に触れようとしていた夏樹は、ギクリとして手を止めた。
雪夜のやけに思い詰めた声に、緊張して思わず夏樹の声がひっくり返る。
この状況で一体何言うつもり!?
っていうか……言ってなかったことって……?
心臓が早鐘を打って、一気に夏樹の顔から血の気が引いた……
「俺ね……実は……――」
***
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