631 / 715

夜明けの星 9-61(夏樹)

 兄さん連中は、雪夜が久々に大掛かりなお出かけとなった花火見物をめちゃくちゃ喜んでくれたことに味を占め、その後、また雪夜とのを立て始めた。  雪夜も積極的に外に出たがったし、みんなと出かけることを喜んでいたので、夏樹にも止める理由がない。  だが、佐々木たちとも話したように、まだ人混みに出るのは難しいため、子ども雪夜の時のように貸し切りにしたり人の少ない場所を選んだりして、少しずつ公園以外の場所にも出かけていくようにした。  雪夜は外遊びやお出かけのおかげで外の景色にも慣れて来て、車での移動中も窓の外をチラチラと眺める余裕も出て来ている。  とはいえ、全然怖くないわけではないらしく、手はしっかりと夏樹の握りしめて……  本人は意識していないようなので、たぶん夏樹の服のことを命綱か何かと間違えている気がする。  いや、全然いいんだけどね?そういうところも可愛いから。  反対側に兄さん連中が座っていても、握るのは夏樹の服だけっていうのも萌っ!  でも……どうせなら手を握って欲しいかな~って……思うのは欲張りかな……?  体調面も、秋から冬になると寒暖差や低気圧の影響などで朝起きられずにグズグズになったり、不安定になったりすることはあったものの、追いかけっこで出た「オニ」のような大きなトラウマは出ることなく、比較的穏やかに過ごせている。  因みに……去年の正月には「今年こそ恋人らしいクリスマスを……!」と、クリスマスデートとかできたらいいな~と思っていたのだが、なんだかんだで未だ別荘にいるし、雪夜はちょうどクリスマス前に風邪を引いたせいで不安定になっていてそれどころではなかったので、恋人らしいクリスマスはまたお預けになった……  まぁ、もう恒例になったみんなでのクリスマスパーティー兼お正月にはしっかりと参加出来たので、雪夜は大満足していたようだが……  ダイジョウブ、オレ、ナイテナイ……ちょっと目から水が出ただけですとも!!  そんな感じで、全体的には順調に安定してきている―― *** 「あ~、そうそう、お正月楽しかったよな~」 「うん、そうだな。その話は後で聞いてやるから、相川はちょっとコレでも食ってろ」 「え、なんで……ってフゴッ!?」  佐々木が相川の口にイカの一夜干しを丸ごと突っ込んだ。 「さてと。だから雪夜が一応安定してきてるのは知ってるって!俺らと話す時も機嫌良いしな。でも、夏樹さんはそれだけじゃないと思ってるんだろ?」  佐々木が頬杖をついて夏樹に先を促して来た。   「まぁな……さっきお前が言った通りだよ……」  夏樹はちょっと苦笑いをした。  いっぱい遊んで疲れたら、夜もいっぱい眠れるはず……夏樹も兄さん連中もそう思っていた。  たしかに、最初の頃はその通りで、薬を飲む間もなく寝落ちをすることもあったし、朝方まで爆睡することもあった。  だが、徐々に……雪夜は睡眠が短くなっていった。  眠ってもうなされて、叫んで、泣きながら飛び起きて……「ごめんなさい」と泣く……  それは昼間テンションが高く楽しそうな時ほど、酷くなる…… 「そうなのか……でもさ、今までもそんな感じだったんじゃないの?睡眠時間に波があったり、うなされたりって……」 「ん~……?まぁそうなんだけどな……」  そう、それだけなら今までと同じだ。  薬を飲んでいてもうなされることはあるし、叫ぶのも泣いて目を覚ますのも……珍しいことではない。  ただ…… 「ただ、今までと違うところがあって……」 「今までと違うところ?」 「……どうやら、うなされているのはが関係しているらしい……」 「夏樹さんが?」  夏樹は曖昧に笑うと、パソコンの画面からちょっと視線を落とした。 「あ、起きる!」 「え?ちょっ……」  携帯を見た夏樹は佐々木に詳しく説明する前に立ち上がると寝室に走った。 ***  夏樹が扉を開けるのと、雪夜が叫んで飛び起きるのとがほぼ同時だった。 「――っっ!!」 「雪夜っ!!」 「――……な……つ……?」  雪夜が肩で息をしつつ、夏樹を見てちょっとホッとした顔をする。  その表情に夏樹もホッとする。  この感じは……大丈夫そうだな……    どうやら、佐々木に話そうとしていたというやつではなさそうだ。  夏樹は優しく微笑んで雪夜の横に座った。 「うん、夏樹さんだよ。どうしたの?喉渇いた?」 「ぁ……の……えっと……」 「今日はいっぱい遊んだから、水分補給しておこうか」  寝ぼけて混乱している雪夜を抱き寄せて、お茶を渡す。  うなされて目を覚ます時は手が震えて力が入らないので、ペットボトルのキャップはストローキャップに替えてある。 「ん……っ……ゲホッ!」 「落ち着いて、ゆっくりでいいから……」 「……っ……」 「飲めた?もういらないの?」  一口目がなかなか飲み込めなかったものの、後は何とかスムーズに飲めたようだ。  うんうんと頷く雪夜からそっとペットボトルを受け取ると、雪夜を抱っこして軽く背中を撫でた。 「まだ夜だからね。もう一回眠ろうか」 「……ん~……」  夏樹の胸元にもたれかかった雪夜が、ほぅ……と息を吐いた。  雪夜がリラックスしているので、恐らくすぐに眠れるはずだ。  夏樹はハミングで子守歌を歌ってあやしながら、携帯で手短に佐々木に状況を伝えた。   「ん゛~~~っ!!」  携帯を弄っている間、背中を撫でる手がおろそかになっていたので、雪夜が「ちゃんと撫でて!」と、自分の背中を軽くふりふり揺らして夏樹に催促してきた。 「ん?あぁ、ごめんごめん。はい!ちゃんとトントンします!」  夏樹はちょっと苦笑しつつ、携帯を置いて雪夜を抱きしめると、そのまま一緒にコロンと横になった。  実は密かに雪夜のこの仕草が気に入っているので、たまにわざと撫でるのをやめてふりふりを待っている時もある。  仕草が可愛いのは言わずもがなだが、雪夜からの「撫でて!」というちょっとした要求が嬉しい。    起きてる時も、そうやっていろいろ言っていいんだよ?  いっぱい甘えて、ワガママ言って……俺に言いたい事いっぱい言っていいんだよ……?  雪夜をあやしつつ、雪夜の髪に顔を埋める。  お願い……   不安なことを教えて……?  俺にどうしてほしいの……?  俺は……どうすればいい……?  どんな夢を見てるの―― ***  

ともだちにシェアしよう!