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夜明けの星 9-63(雪夜)
「――うん、それじゃまたね~!」
佐々木との通話を切った雪夜は、夏樹にタブレットを返すために寝室から出た。
「夏樹さ~ん!終わりま……し……あれ?」
夏樹さんがいない……
雪夜が佐々木たちと通話をしている時は、夏樹はいつも寝室のすぐ外にある仕事スペースでパソコンを開いて仕事をしている。
あ、裕也さんが来てるから、母屋のリビングで話してるのかな……?
いや、でも話すならここで話してるだろうし……
あとは……トイレ……かな?
夏樹はいつだってリビングにいるわけではない。
トイレにも行くし、母屋の冷蔵庫や冷凍庫まで食材を取りに行くこともある。
何にせよ、この別荘内にいるのは確実なのだから、しばらく待っていればすぐに戻って来る。
それはわかっているが、いると思っていたところにいないと……不安になる……
「なつ……なつきさん……?」
誰もいないリビングに……ひとりきり……
誰もいないリビングを見るのは初めてではないのに、急に孤独感と恐怖感に襲われ、頭の中を何かがフラッシュバックした。
なんだろう……何かが一瞬頭を過ぎった……
過去の記憶……?
いつの……?
何の……?
どこの……?
カメラのフラッシュのように瞬きする度に一瞬頭にチカチカと流れ込んでくる。
でも、詳しく思い出そうとすると、強烈な頭痛と吐き気がした。
「っ……ぅっ……!」
何っ!?なんで!?
痛い……怖い……寂しい……苦しい……
タスケテ……
「……やだ……っ………なつ……きさん……夏樹さ……っ!?」
目の前の景色がグルグルと回っているように見えて軽くパニックになりかけていた雪夜は、無意識に夏樹を探そうとした。
どこに向かえばいいのかもわからないのに、とにかくじっとしていたくなくて足を踏み出す。
が、膝に力が入らなくて、踏み出した瞬間前に倒れこんだ。
***
「――っ!!」
……あれ?痛……くない……?
転ぶっ!!と思ってギュっと目を瞑っていた雪夜が、恐る恐る目を開けると……雪夜の身体は地面まであと少しのところで止まっていた。
なんで?俺……浮いてる?
「……っぶね~~……雪夜大丈夫?どうしたの?足がもつれちゃった?」
雪夜の顔のすぐ横から声がした。
「……?」
声がする方を見ると、夏樹と目が合った。
「ふぇ?」
え?なんで夏樹さんがいるの!?
夏樹さんさっきまでいなかったよね!?
「よいしょっと……ほら、おいで!」
状況がよくわからずハテナマークを飛ばしまくっていた雪夜は、気が付くとソファーに座った夏樹の膝の上に抱っこされていた。
「あ……あの……あれ?夏樹さん一体どこに……俺なんで……?今転んで……」
「うん、転びかけてたね。俺ならずっとここにいたよ?――」
夏樹はソファーに横になってうたた寝をしていたらしい。
雪夜用に置いてあるソファーと同系色の毛布をかぶっていたせいでソファーと完全に同化していたので、パニクっていた雪夜には見つけられなかったのだ。
「雪夜に呼ばれた気がして目を開けたら雪夜が倒れて来たから……びっくりしたよ」
夏樹が寝ていたソファーのすぐ横に倒れこんだので、夏樹が咄嗟に腕を伸ばして雪夜を受け止めてくれたらしい。
「でもまぁ、間に合って良かったよ。どこもケガしてない?テーブルにぶつからなかった?」
「え?あ……はい。大丈夫……です」
「そか。あのね雪夜、転ぶ時はちゃんと手を前に出してつくようにしないと、今の転び方だと顔面から床に激突しちゃうよ?可愛いお鼻がぺちゃんこになっちゃうぞ?」
夏樹が雪夜の鼻先を軽くなでながら苦笑した。
「ぅむぅ~……」
雪夜も倒れそうになった時に、手をついて身体を支えなきゃと思った。
……はずなのだが、パニクっている時は変な行動をとってしまうもので……手を前に伸ばしたはずが、背中をグッと伸ばす時みたいに両手をピンと頭の上に伸ばしてしまっていたらしい。
そのポーズのまま床に倒れ込めば、確実に顔面強打で大惨事だ。
でも、うまく身体を伸ばしていたおかげですっぽりとソファーとテーブルの間の隙間に倒れこむことができたし……夏樹さんが受け止めてくれたし……
え~と、つまり、結果オーライ!?
「そうだね。でもそれは今回だけだからね?倒れこんだ先にいつでも俺がいるとは限らないし、いくらクッションマットにしてるって言ってもそれなりに衝撃はあるから、転ぶと痛いと思うよ?だから、ちゃんと手をつこうね」
夏樹がちょっと呆れ気味に雪夜の額を指で軽く弾いた。
「あ痛 っ……ふぇぇ~~い……っ!?」
軽く弾かれただけだったのでそんなに痛くはないが、何となく反射で「痛い」と言ってしまう。
雪夜が夏樹に弾かれた額を撫でながら情けない声で返事をすると、夏樹がふっと微笑んで雪夜の額を撫で、今さっき自分が指で弾いた箇所に軽くキスをした。
「はい、おまじないしたからもう痛くないでしょ?」
「ほぇ!?あ、はははい!!」
わぁ~い!夏樹さんに、おまじない……してもらっちゃった……!!
……ん?ところで、何のおまじないだったんだろ?
……まぁ何でもいっか!!
夏樹は毎日いっぱいキスをしてくれる。
それでも、毎回初めてしてもらうみたいにドキドキする。
ドキドキして、嬉しくて、恥ずかしくて、顔が熱くなる。
今だって、夏樹が雪夜のためにおまじないをしてくれたのが嬉しくて……
あ゛~~!俺今絶対変な顔してるぅうう~~~!!
雪夜は夏樹に変な顔を見られたくなくて、慌てて夏樹の肩に顔を埋めた――……
***
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