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夜明けの星 9-64(雪夜)
「――それで、雪夜は何してたの?」
夏樹が雪夜を抱きしめて頬や髪を撫でつつ聞いてきた。
夏樹の手が気持ち良くて、ついウトウトしてしまっていた雪夜は、一瞬何を聞かれているのかわからなかった。
「……へ?ん~……えっと……あ、そうだ!あの、佐々木との通話が終わったのでタブレットを返しに……あれ?タブレット……」
雪夜は手に持っていたはずのタブレットがないことに気付いた。
どこかに置いたっけ?とキョロキョロしていると、夏樹が
「あ~……うん、わかった。見つけたからもういいよ」
と言った。
「え?どこですか?」
「ん?あそこ」
夏樹の指差す先を見ると、ソファーからだいぶ離れた場所にあるボードゲームの箱をいっぱい収納している棚の、箱と箱の隙間にタブレットらしきものが刺さっていた。
タブレットさあああああああああんっっ!!??
「……え?ええっ!?なんであんなところに!?」
「ん~?たぶん、さっき転んだ時に……ふっ……ゴホッ!……吹っ飛んだんだろうね……ぶはっ!!……はははっ!!」
夏樹が話しながら途中で吹き出した。
「フットンダ……?……えええええええええええっ!?どどどどうしよう!?タブレットこ、壊れちゃったかな……?あんなところまで飛んで行っちゃったんだから壊れてますよねっ!?あの、俺壊すつもりはなかったんですけど……っていうか、あの、そうじゃなくて、えっと、投げるつもりもなくて……でもあの、手からポーンって飛んでいっちゃったみたいで、えっと……ごごごめんなさいぃいいいい!!」
ぅわあああああ!!!またやっちゃったよぉおおおおおおおお!!
雪夜は幼児退行していた時に夏樹が使っている携帯やタブレットなどを壁に投げつけて大量にぶっ壊した……らしい。
そして、大学生に戻ってからも……パニックになった時に学島の携帯をぶん投げて壊しかけた前科がある。
いやもうほんとに……自分でもなんでそんなに携帯やタブレットをぶん投げたのか意味不明過ぎて……投げるならボールにしときなさいってその時の自分に言ってやりたい!!(そのくせ、ボールを投げるのは下手なのがもっと謎過ぎる……)
「あああああの、俺、俺……どどどうすれば……」
「はいはい、落ち着いて。別に大丈夫だよ」
「でででも、タブレットが……」
「たぶん、壊れてないと思うけど……みてみようか」
夏樹はアタフタしている雪夜に笑いかけると、タブレットを取りに行き、箱と箱の隙間にぶっ刺さっているタブレットの写真を撮って、そのまままたソファーに戻って来た。
……ん?あれ?えっと……みてみるってそういうこと!?
「へぇ~!ほら見て!すごいね、雪夜!これはやろうと思って出来るもんじゃないよ!?この画像、斎さんたちに送ってもいい!?」
「あ、はい。それは別にいいんですけど……あの~、夏樹さん?」
「ん?」
「タブレットを取りに行ったんじゃ……?」
「あ、そうだった。写真撮っただけで満足しちゃってたよ」
吹っ飛んだタブレットに大ウケしていた夏樹は、慌ててまたタブレットを取りに行った。
「はい、お待たせ!今度こそちゃんと取ってきました!」
夏樹が自分自身に苦笑しながら、ちょっとおどけてタブレットを軽く振った。
やらかした本人 が笑っちゃダメだと思い我慢していたが、やけに楽しそうな夏樹の笑顔に雪夜もつられてちょっと口元が緩む。
普通なら怒られても仕方のないことをしたのに、そんな俺の行為を「すごいね!」と笑ってくれる夏樹さんは優しい。
そういうところがほんとに……好き過ぎるっ!!!
はいもう、大好きですっ!!
でも、夏樹さんが優しいからって甘え過ぎるのはダメだよね……
だって、今までのことを考えるとさすがに……壊しすぎ……
申し訳なく思いつつも、雪夜はタブレットと棚を交互に見ながら首を捻った。
う~ん、どうやったらあんなところまでタブレットを飛ばして、ちょうど箱と箱の間にブッ刺すなんて芸当ができるのかと……我ながら感心しちゃうな~。
いや、感心してる場合じゃないからっ!!
どうか壊れていませんように!!
雪夜は心の中でタブレットさんの無事を祈った。
***
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