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夜明けの星 9-65(雪夜)

「……で、なんでそうなったの~?」  裕也が、ソファーの後ろから背もたれに肘をついてちょっとからかうような表情で見下ろして来た。 「あはは……」  爆睡する夏樹に抱きしめられて身動きが取れなくなっている雪夜は、そのままの状態で裕也に苦笑いをした――   ***  結果的に、タブレットは何とか無事だった。  最初は全然反応がなかったが、夏樹が「もしかして……」と充電器に繋いでみたところ、普通に起動することが出来たのだ。  どうやら、ただの充電切れだったらしい。  タブレットさんが無事で本当に良かったよぉ~!!  と、ホッとしたのも束の間、なぜか雪夜は夏樹とソファーに寝転がっていた。 *** 「――うんうん、タブレットさん無事で良かったね!それじゃタブレットさんはもういいよね!?」 「へ?」 「次はこっち」  夏樹は笑顔のまま雪夜からタブレットを取り上げると、雪夜を抱きしめてそのままソファーに倒れこんだ。 「え、ああああの……夏樹さん!?」 「次は夏樹さんと一緒にお昼寝タイムです」 「……へ?……あっ!そうか、さっき俺が起こしちゃったんですよね!?っていうか、俺が寝室使ってたからこんなところで寝てたんですよね……すみません……」 「ちょっと横になってただけだから別にソファーで十分だよ」 「……ぇ……と……あの、夏樹さん、具合でも悪いんですか?」  雪夜のために一緒にお昼寝をしてくれることはあるが、雪夜が起きているのに夏樹が横になっているのは珍しい。  夜も、眠っていると思っても雪夜が起き上がるとすぐに起きて来るので、雪夜の中では、夏樹は常に起きているイメージだ。  ちゃんと眠っているのか心配になって、無理やりベッドに連れて行くこともあるが、たいてい雪夜の方が先に寝かしつけられてしまっているのであまり意味がない……  雪夜は急に夏樹の体調が心配になった。    夏樹さん、いつも俺のせいでいろいろ無理してるから……   「いや、全然元気だよ?裕也さんと学島先生はゲームの話しで盛り上がってたし、仕事も一段落ついて暇だったから、ちょっと仮眠してただけだよ。でも、ひとりだとあんまり眠れなかったから一緒に眠ってくれる?」  夏樹が雪夜の耳元でちょっと甘えた声で囁いた。 「ふぁっ!?ああああの、でも、あの、この体勢だと俺が重くて眠れないでしょ!?」  夏樹は雪夜を抱きしめた状態で仰向けに倒れこんだので、雪夜は完全に夏樹の上に乗ってしまっているのだ。  これ、どう考えても俺が重しでしかないでしょ!?  いくら俺の体重が男にしては軽いって言っても…… 「ん~?慣れてるから大丈夫だよ?」 「……ぇ……慣れてる……?」 「雪夜を抱っこしたまま寝るのは、いつものことだし?」 「……へぁ!?」  そそそそうなのですかっ!?  待って!!俺いつもなにやってんの!?  そりゃたしかに、夏樹さんによく抱っこしてもらってますけど、不安定になってる時とかも、なんかよく抱っこしてもらってたような気がするし……でも夏樹さん、そのまま寝てたのぉおおおお……!?   「雪夜く~ん、ちょっと落ち着こうか。もうちょっとジッとしてて欲しいな……その方が苦しくないから」 「はぅっ!?すすすすみませんっ!!ジッと……はいっ!!ジッとですね!?」  夏樹の胸の上でアタフタしていた雪夜は、夏樹に言われて慌てて動きを止めた。  夏樹の胸元にピッタリと抱きついてジッと息を潜める……  うん、夏樹さんの心音は正常ですね……!!  俺の心音はかなりヤバいです!! 「雪夜?呼吸はしてね?」 「ぷはっ!!……ゲホッ!……は、はい!」 「ははっ!ほら、息止めると苦しいでしょ?普通に呼吸していいから」 「わ、わかってるんですけど……あの……待って、ちょっと一回下りま……」 「だ~め。ちゃんとここにいて?」 「でも……あの……」 「ん?いや?」 「イヤじゃないですっ!!ただ……は……恥ずかしぃ……」  自分でも何をいまさら……と思う。  けど……恥ずかしいものは恥ずかしいし……   「ふふ……そ……か……」 「……夏樹さん?」  あれ?寝てる?  雪夜を抱きしめている手は微かに背中をポンポンしてくれているので、完全に眠っているわけではなさそうだが、夏樹は微笑んだまま目を瞑ってしまった。  ぅわ~……ずっと見ていられる……  夏樹さんはホントに……かっこいいな~……  普段はなかなか夏樹の顔をマジマジと見ることができないので、こういう機会は貴重で嬉しい。    はわ~~……この寝顔撮りたいっ!!  あっ、でも自分の携帯ないんだった!!  夏樹さんの携帯で撮ったら夏樹さんにバレちゃうよね……あああああああああもったいないぃいいいい!!!  せめて忘れないように焼き付けておこうっ!!!  こうして、雪夜が夏樹の寝顔を脳裏に焼き付けようと凝視しているところに、冒頭の裕也がやってきたのだ。 *** 「雪ちゃん?なんで自分の彼氏にガン飛ばしてるの?ケンカでもした?」 「――っ!?」  裕也がいつからいたのか全然気づかなかったので驚いたが、何とか声を抑えた。  雪夜が凝視しすぎて、裕也には雪夜が夏樹を睨みつけているように見えたらしい。 「裕也さん、一生のお願いがあるんですけど……」  雪夜は声を押し殺した状態で、裕也に話しかけた。 「え、何々~?雪ちゃんがお願いとか珍しいね~。どんなお願い?」 「写真撮って!!」 「へ?」 「夏樹さんのこの最上級の寝顔撮って!!お願いしますっ!!」 「あ~……なんだそんなことか。はいはい、いいよ~。え~と、じゃあ僕のやつで撮っておくね?」  裕也は一瞬呆気に取られていたが、すぐにクスッと笑って快諾してくれた。  雪夜が言わなくても察してくれて、裕也は自分のカメラを構えると、角度を変えて何枚か写真を撮ってくれた。  夏樹の寝顔だけで良かったのだが、裕也は変に気をきかせて雪夜も一緒に撮ってくれた。  う~ん……俺邪魔だなぁ……まぁいいか……これも大事な思い出だもんね……!! 「それじゃ、撮ったやつは僕のデータに入れておくから、見たくなったらいつでも言ってね」 「ありがとうございましたぁ~」 「……ん~?さっきから二人で何やってんの……?」  急に夏樹が目を開けた。 「ぅひゃぁっ!?ななな夏樹さんっ!?お、起きて……!?」 「いい気分で寝てたけど、周りでコソコソしてる気配があればさすがに起きるよ」    ですよね~~!!! 「あの、な、夏樹さんが寝ちゃったから、あの……」 「僕に用があるって呼びだしたのはなっちゃんでしょ~?それなのに寝てたから、何やってんの?って話してただけだよ」 「あ~……そうだ、タブレット……みてもらおうと思って。そこのやつです。さっき雪夜が久々に――」  気だるげに夏樹がテーブルの上を指差し、裕也に説明を始めた。  どうやら、まだちょっと寝ぼけているようだ。    写真を撮っていたことは気づかれてない!?  気づいてないよね!?  よしっ!!せ~~~~ふっ!!! ***

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