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夜明けの星 9-67(夏樹)

「はぁ~~~~……」  同僚との会議が終わって、仕事のデータファイルを送信し終えた夏樹は、大きく伸びをしてため息をついた。 「おいこらナツ、さっきから何なんだよ?人の顔見てため息吐くんじゃねぇよ!」  画面の向こうで浩二が顔をしかめる。 「あ~……すみません。つい……」  夏樹はさりげなく浩二とのテレビ通話画面を最小にして、代わりに雪夜の写真を画面いっぱいに出した。  本当は壁紙にしたかったが、雪夜が「俺のドアップなんて恥ずかしいからやめてくださいっ!!」と言うので、仕方なくこうして仕事中にこっそりと眺めているのだ。 「つい……じゃねぇよ!……ったく……どうした?とうとう雪ちゃんに嫌われたか?」 「雪夜ですか?雪夜は今日も可愛いですよ?」  はにかみ笑顔の雪夜の写真に頬を緩ませつつ、浩二におざなりな返事をする。 「……あ゛?俺の質問の答えになってねぇ気がするけど……まぁいいか。……雪ちゃん絡みじゃねぇなら何だよ?」 「いや、雪夜絡みではあるんですけど……」 「どうした?体調でも崩してるのか!?」  浩二がちょっと前のめりになる。 「まぁ、この天気ですから、体調はイマイチなんですけど……」  梅雨入りしてしばらくは晴れの日が続いたが、ここ数日は梅雨らしい空模様になっている。  おかげで、低気圧にやられて雪夜はかなりグズグズだ。  今日は少し体調がマシだったので、今は学島と二階のトレーニングルームでリハビリをしている。 「あ~、梅雨だからなぁ……で?他にも何かあるのか?……お前も具合悪いとか?」 「最近、雪夜が……」 「雪ちゃんが……?」 「可愛すぎるんですよね……」 「なんだとっ!?……って、通常営業じゃねぇかっ!!心配して損したわっ!ただの惚気(のろけ)かっ!!」 「惚気です」  というか、浩二さん一応心配してくれてたのか…… 「そうかそうか。そんじゃこれもよろしく~」  浩二から新しいデータファイルが次々に送られてくる。 「ちょ、仕事増やさないで下さいよ!!しかもコレ浩二さんの仕事でしょ!?」 「いいじゃねぇか。俺ぁ忙しくて全然雪ちゃんに会いに行けてねぇんだぞ!?」  浩二がちょっと口を尖らせた。  たしかに、浩二はしばらく別荘に顔を出していない。  ……が、   「それとこれとは別でしょ!?」 「別じゃねぇよ!お前がそれを片付けてくれりゃ、俺は仕事が早く終わって雪ちゃんに会いに行けるんだよっ!!」 「いや、だから……自分の仕事なんだから、自分で片づけて下さいよっ!!俺には俺の仕事が……」 「いいから早くやれよ!それが終わるまで話し聞いてやるから!」 「……ぇ?」 「雪ちゃんが可愛いのはいつものことだ。それをわざわざ言うってことは、他にも何かあるってことだろ?」  夏樹は思わず画面を戻して浩二をマジマジと見た。 「ホントに浩二さんですよね?中身だけ斎さんと入れ替わってたりします?」 「はあ?なんだそりゃ」 「だって、浩二さんがそんなこと言うなんて……」  疑わし気に眉をひそめると、浩二がカメラに顔を近づけて来た。 「あのなぁ……俺だって一応雪ちゃんとお前のことは心配してんだよ!だいたい、お前が今送って来たこのデータ……お前にしては珍しく凡ミスしまくってるぞ?こんなの見たら、何かあるってことくらいわかるっつーの!」 「えっ!?ぅわ~~……マジっすかぁ~~……すみません……」  おかしいなぁ……送信する前にちゃんとチェックしたはずなのに……    夏樹は軽く額に手をあてると、浩二に頭を下げた。 「まぁたいしたミスじゃねぇから、こっちで直しておく。そんで?雪ちゃんがどうしたんだ?」  浩二が画面を操作しながら、夏樹に話すよう促してきた。 「実は……」 ***

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