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夜明けの星 9-70(夏樹)

「……どういうこと?」 「さぁ……?」  晴れ間が続いて例年よりも早い梅雨明けが予想され始めた7月。  夏樹は久々に別荘に遊びに来た佐々木に胸倉を掴まれていた―― ***  雪夜は相川とリハビリ室で遊んでいる。  佐々木はお茶を入れて来るという名目で抜け出してきたのだ。 「さぁ。じゃねぇだろっ!!」  佐々木は一応リハビリ室に聞こえないように声は抑えているが、その分、夏樹の胸倉を掴む手に力が入って…… 「ぐぇっ!」  うん、ちょ、俺の首が絞まるって! 「いつからだよ!?」 「まぁまぁ、ちょっと落ち着けって!」  別に外そうと思えば外せるが、逆らうと後が怖いのであえてされるがままになっていた。 「いつからかなんて……雪夜の様子がおかしいのはこの数年間ずっとだろ?」 「そういう意味じゃなくて……!」  雪夜は佐々木たちが来てくれて朝からテンションが上がっていた。  天気もいいので調子も良く、機嫌よく遊んでいる。  じゃあどうして夏樹が佐々木に胸倉を掴まれているのかと言うと…… 「俺らがここに来てから一体何回雪夜が「ありがとう」と「大好き」を言ったと思う!?何だよあれ!?可愛すぎるだろっ!!……ん?いや、それはいいよ?雪夜が可愛いのはいいんだよ!!そうじゃなくて……あの雪夜が、恥ずかしがり屋な雪夜が、「大好き」を連呼するなんて……まぁ、前から俺らにはわりと言ってくれてたけど……照れながらでも、冗談めかしてでも、俺らには言ってくれてたけど……あれ?じゃあ別に普通なのか?……」  佐々木にしては珍しくパニクって話しの内容がめちゃくちゃだが、つまり雪夜が可愛いということでOK? 「だから、雪夜が可愛いのは知ってんだよっ!可愛のが問題なのっ!!」 「はい、すみません!」  一体俺にどうしろと……?  夏樹は両手を上にあげて、降参のポーズをした。 ***  7月に入った頃から、雪夜はやけにみんなに会いたがった。 「みんな……次はいつ来てくれるかなぁ……」  ハッキリと「みんなに会いたい」と言うわけではないが、写真を眺めながらよくそう呟くようになったのだ。  梅雨の間は雪夜の体調がイマイチだったのでお出かけは全然出来ていない。  兄さん連中は何かイベントでもない限りは別荘に勢ぞろいすることはないし、最近は副業の方が忙しいらしく、別荘には裕也か斎がたまに来る程度になっていた。 「みんなに会いたいの?連絡してみようか?」  夏樹がそう言うと、雪夜は聞かれていると思っていなかったのか少し慌てた。  口に出している自覚がなかったらしい。 「えっ!?なんでわかっ……あ、あの、はい!あ、でも、連絡は……みんな忙しいかもしれないし……」 「会いたくない?」 「会いたいですっ!会いたいけど……でも、会えたらいいな~くらいで……」 「ん、わかった。まぁ、もう送信したけどね」 「ええっ!?」  雪夜が返事をする前に夏樹は斎たちに「雪夜がみんなに会いたがってます」と一言だけ送った。  すると、一分も経たずに次々と返事が来た。 「あ、返事来たよ」 「え、早っ!」 「ん~……今兄さん連中は副業の方が忙しいみたい」 「……ぁ……そう……なんですか」  雪夜がしょんぼりと俯いた。 「うん、忙しいから、明日から交替で来るってさ」 「わかりま……はいっ!?」  雪夜は顔をあげてポカンとしながら夏樹を見た。 「明日は裕也(ゆうや)さんと玲人(れいじ)さんが来るみたいだよ」 「え、でもあの、忙しいんじゃ……ないんですか?」 「忙しいみたいだよ?だから、みんな揃って来るのはすぐには無理だってさ」 「えっと……だ、大丈夫なんですか!?」 「あぁ、うん。本人たちが来るって言ってるんだから、大丈夫だよ」  雪夜は自分が「会いたい」なんて言ったせいでみんなに気を使わせたのでは?と気にしていたが、心配しなくても兄さん連中は雪夜のことが大好きだ。  だから、最近別荘に来られなくて残念がっているのは向こうも同じで……兄さん連中も雪夜に会いたがっていたので、「雪夜が会いたがっている」と聞いて喜ばないはずがない。  たぶん、今の案件も早々に片付けて、7月中には揃ってやってくるだろう。 「あ、愛ちゃんたちは来週来るってさ」 「え、あいちゃんママたちも来てくれるんですか!?」 「うん。え~と、佐々木たちは……その次かな」 「佐々木たちも!?って、え、みんなに聞いてくれたんですか!?」 「え?もちろん。だって、に会いたいんでしょ?ごめん、もしかして違った?」  雪夜が見ていた写真は、クリスマス兼お正月の時の写真や、雪遊び、花見、花火……が集まった時の写真だった。  だから、夏樹は兄さん連中だけでなく佐々木たちや愛華たちにも連絡したのだ。 「違わないですっ!あの、みんなに……みんなに会えたらいいな~って思ってました!でも、みんな忙しいだろうし、無理だろうなって思ってたから……」 「会いたい時は会いたいって言っていいんだよ。無理かどうかは言ってみなきゃわからないでしょ?ねぇ雪夜。大好きな人に「会いたい」って言われてイヤな気持ちになる人なんていないんだよ」 「大好きな人……?」 「いつも言ってるでしょ?みんな雪夜のことが大好きなんだよ。だから、雪夜が会いたいって思ってくれてることがわかって、みんな嬉しかったと思うよ?」 「……そか……良かった……」  雪夜がちょっとくすぐったそうに笑った。 「もちろん、俺も大好きだよ……?」  夏樹は照れ笑いをしている雪夜の頬を指で軽く撫でた。 「……え?」 「俺も、雪夜が大好きだよ」 「あ……えっと……あああの、俺も……俺も……しゅきれしゅっ!ぁ()っ!」  真っ赤になって焦った雪夜が大事なところで盛大に噛んだ。   「ふはっ!……はははっ!!」  舌を噛んでしまったようで、瞳を潤ませつつ口を押さえた雪夜に、思わず吹き出してしまった。 「ぅ~~~!!今のはなかったことにぃいいいい!!」 「やぁ~だよ。俺もしゅき~!」 「もぅっ!!夏樹さんのいぢわるぅ~~!」 「ははは、その顔も好きだよ」  夏樹は、半泣きでむくれる雪夜に軽くキスをして抱きしめた―― ***

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