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夜明けの星 9-72(夏樹)
佐々木たちが帰ると、雪夜はソファーに崩れ落ちた。
横になったまま、以前兄さん連中に買ってもらったアルパカのぬいぐるみを抱きしめて顔を埋める。
「ゆ~きや」
夏樹は雪夜の頭をそっと撫でながら話しかけた。
雪夜はみんなが来てくれるとテンションが上がる。
そして、みんなが帰った後はいつもしばらく放心状態になったり、こんな風に落ち込んだりしている。
特に7月に入ってみんなに「遊びに来て」と連絡をしてからは、テンションの落差が激しい。
佐々木たちは雪夜にとって初めての親友なので、今日はいつも以上に落ち込み方がひどくなりそうだ。
「……っ……」
「おいで」
「っ……!」
雪夜はイヤイヤと小さく顔を振ったが、夏樹は構わずに雪夜を膝の上に抱きあげた。
「佐々木たち帰っちゃったね」
ぬいぐるみに顔を押し付けている雪夜をそのまま抱きしめる。
「寂しいね」
「……っ~~~~……」
「大丈夫、すぐに会えるよ。また遊ぼうって言ってたでしょ?」
「……ひんっ……っく……ぅ~~~~っ……」
「8月になったらまた来るって言ってたよね。楽しみだね!今度は何して遊ぶ?――」
「ふぇ~~~っ!!」
声を押し殺していた雪夜が、徐々に声を出して泣き始めた。
ようやく泣けたか……
「よしよし、泣いていいんだよ。我慢しなくていいからね。はい、アルさんはこちらにどうぞ~」
夏樹が、雪夜との間に挟まれて潰されていたアルパカのぬいぐるみを引っ張り出して横に置くと、雪夜は夏樹に抱きついて胸元に顔を押し当てた。
アルパカのぬいぐるみに「アルさん」と名前をつけたのは雪夜だ。
アルさんはお風呂に入れなきゃだな……
雪夜の涙と鼻水でべちゃべちゃになったアルパカのぬいぐるみに苦笑いをしつつ、雪夜の背中をとんとんと撫でてあやす。
「ぅ゛~~~っ……っく……かえっちゃ……ひっく……った……」
しゃくりあげながら雪夜が呟く。
「うん、帰っちゃったね」
夏樹は、雪夜が声を出して泣けるようになると、あとはなるべく静かに聞き役に回るようにしている。
「や……っだぁ~~……っく」
「ん?うん、もっと一緒にいたかったよね」
「んぇ……っく……ひんっ……」
こんなに大号泣しているのを見ると、傍からは佐々木たちと会うのがよほど久しぶりなのだろうと思われるかもしれないが、前回佐々木たちが別荘に来たのは5月の連休だったので、実際に会うのは2か月ぶりくらいだ。
この2か月を「もう2か月」と思うか、「まだ2か月」と思うかは人それぞれだが、夏樹は雪夜のことでいろいろと頭を悩ませていたので2か月なんてあっという間だった……
因みに雪夜は、体調の良い日は佐々木たちと毎晩のようにテレビ通話をしている。
それでも……佐々木たちが帰ると「もっと一緒にいたかった」と泣くのだ。
もちろん、映像と実際に会うのとでは、実際に会う方が嬉しいのはわかるが……
それにしても、ちょっと……いや、だいぶ妬ける!!
佐々木たちと同じくらい……俺とも一緒にいたいって思ってくれてたらいいのに……!
なんてな……
夏樹は自嘲気味に笑うと、佐々木たちに嫉妬している自分にそっとため息を吐いた。
まぁ、それはともかく、今日は長引きそうだな……
夏樹は腕の中でしゃくりあげる雪夜をやんわりと抱きしめると、そのままソファーに倒れこんで長期戦に備えた。
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