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夜明けの星 9-73(夏樹)

「……雪夜?」  胸元から泣き声の代わりにプスープスーという音が聞こえて来たので、夏樹は思わずカメラを構えた。  雪夜は泣きつかれて寝落ちするとたまに寝息が面白可愛い。  動画を撮りたいと思いつつも、いつもはなかなかタイミングが合わなかったり、携帯が手元になかったりで撮りたくても撮れなかったのだが、今日はちょうど携帯が手が届く場所にあった。  よしっ!!ようやく撮れる!!  寝息だけで癒されるってどういうこと!?あ~もう、マジ天使!! 「……ぅ~~……」 「あっ!ごめんね。大丈夫、まだ眠ってていいよ」 「……ぅみゅ~……」  動画を撮るために夏樹のトントンが止まったせいか雪夜が小さく唸って身体を揺すったので慌ててトントンを再開する。  ところが、片手でトントンしながらカメラを構えたものの、雪夜が顔を動かしてしまったのでさっきの面白可愛い寝息はもう聞こえなかった。  くそぉ~……今日も撮れなかった……  ――雪夜はあれから1時間程泣き続けた。  普段なら30分程で寝落ちするか泣き止むので、やはり今日はだいぶ落ち込みが激しい……  だが、泣きつかれたとは言え、無防備な状態でうなされずに眠っている雪夜を見るとホッとする。    夜眠れるとは限らないし、このまましばらく眠らせておくか……    夏樹は時刻を確認すると、携帯を置いて目を閉じた。 *** 「あ゛っ!」 「――ぅっ……」  夏樹は胸に圧迫感を感じて目を覚ました。  うたた寝のつもりが本気寝になっていたらしい。  なんだ?やけに息苦しい…… 「ゴメンナサイ……っ」  押し殺した声が聞こえて目を開けると、雪夜の顔が超ドアップで目の前にあった。  ん?雪夜?  一瞬近すぎて誰かわからなかったが、泣いたせいで赤く腫れている目尻と思いっきり動揺している瞳で雪夜だとわかった。  目を開けて恋人の顔が目の前にあったら……とりあえずは……  キスするよね?  夏樹は、慌てて起き上がろうとする雪夜の後頭部に手を当てて引き寄せると口唇を重ねた。 「ぇっ……!?んんっ!?……」  若干寝ぼけていた夏樹は、キスをしながら雪夜を抱きしめてくるりと体勢を入れ替えた。  下から眺める雪夜もいいけれど、雪夜は上になると夏樹に体重がかかるのを気にして身体が強張る。  ので、結局いつも夏樹が上になる。 「――……はっ……んぁっ!……ま、待ってっ!夏樹さんっ!」  首筋を愛撫しつつ服の中に手を突っ込もうとした夏樹に、雪夜がストップをかけた。 「ん?イヤ?」 「ちがっ、あの……イヤじゃなくて……っん……ダ、ダメっ!あの……ふぇ……」 「……ん?」  あ、もしかして……  夏樹はサッと起き上がると、雪夜の顔を横に向けておいて、身体もコロンと横向きに転がした。  それと同時に、雪夜が「ふぇっぷち!!」と何とも可愛いくしゃみをした。  やっぱり……くしゃみがしたかったのか…… 「す、すみま……へっぷちょん!!」 「いや、俺こそごめんね。大丈夫?」  夏樹が笑いを噛み殺しつつティッシュを渡すと、雪夜が起き上がって鼻をかんだ。 「ずびばぜん゛……んん゛、実はさっきからずっとくしゃみが出そうで――……」  どうやら、目が覚めた雪夜はくしゃみが出そうだったので夏樹の頭の上にあるティッシュを取ろうとしていたらしい。  ところが、夏樹がしっかりと雪夜の腰を抱きしめていたせいでちゃんと起き上がれず、夏樹を起こさないように気を付けながら精一杯手を伸ばしてみたものの途中で支えていた方の手が滑って夏樹の顔の上に胸元からポスンと落ちてしまったのだとか。  どうりで息苦しかったわけだ…… 「さっきはすみません……」 「ははは、気にしなくても大丈夫だよ。雪夜がちょっと降って来るくらい……」 「そっちじゃなくて……いえ、あの……もちろんそっちもなんですけど!でもあの、さっき……と、途中で止めちゃったから……」  ん?あぁ……  話しの流れからして、夏樹の上に落ちてしまったことを謝っているのかと思ったのだが、雪夜は夏樹の愛撫を止めてしまったことを謝って来た。  ってことは…… 「じゃあ……続き……する?」  夏樹は微笑みながら雪夜の口唇を指でなぞり、耳元で囁いた。 「ふぇっ!?あ、あの……えっと……」 「と言いたいけど……もう晩ご飯作らないとだね」  夏樹はパッと雪夜から離れると、ピンクに染まった雪夜の頬を軽く撫でて、時計を見た。 「ええっ!?……ぁ……そ、そうです……ね……」  雪夜も時計を見て渋々納得する。 「うん、だから、晩ご飯食べて、お風呂も入って、寝る準備してから続きしようか!」 「……はい……ぅえっ!?」  しょんぼりしていた雪夜が、ポカンと夏樹を見上げた。 「それじゃ、晩ご飯作って来るね!」  ポカンとしている雪夜の額に軽く口付けると、夏樹は鼻歌を歌いながらキッチンへと向かった。 「……っ!?~~~~~っ!!」  時間差で雪夜が真っ赤になってソファーで悶えていた。 ***

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