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夜明けの星 9-74(夏樹)
「雪夜~、まだ~?」
「ん゛っ!……っふぁぃ!ゲホッ!今行きま~す!」
「あ、ごめん、まだ飲んでた?お茶飲んでからでいいよ。先に俺の髪乾かすからゆっくり飲んで」
「はい!」
風呂上りにお茶を飲みに行った雪夜を待ちつつ、夏樹は自分の髪を乾かしていた。
先に宣言をしたせいで、雪夜は晩ご飯の最中も浴室でも真っ赤になって黙って俯いていた。
抱かれるのはイヤじゃないみたいだけど、意識するとダメなんだよな~……
本人は必死に平常心を保とうとしているようだが、夏樹がちょっと動くだけでビクッとするので意識しているのがバレバレだ。
まぁ、そうなるのはわかっててわざと言ったんだけどね……
だって、アワアワしてる雪夜可愛いし!?
「お……たせ……ま……」
夏樹がそんなことを考えていると、何か聞こえた気がした。
雪夜が来たかな?
「ん~?」
前髪を乾かすために軽く俯いて目を瞑っていた夏樹は、返事をしつつ顔を起こしてドライヤーをちょっと引っ張った。
その瞬間……
「あっ!!」
「……え?……うわっ!?」
夏樹の目に、正面から倒れ込んで来る雪夜が見えた。
咄嗟に雪夜を腕だけで抱き留める。
「……っと……大丈夫?」
「……は、はいっ!あの、すみません。足が引っ掛かって……」
夏樹が引っ張ったせいでドライヤーのコードに足を引っ掛けたらしい。
「ごめんね、俺が急に引っ張ったからだ」
「いえ、あの、違うんです!俺がお茶に集中して足元をちゃんと見てなかったから……」
どうやら、雪夜は両手にグラスを持っていたらしく、こぼさないように手元に集中して歩いていたので足元のコードに気付かなかったようだ。
「あれ?……って、お茶!?……夏樹さ……あ゛……」
恐る恐る夏樹から離れた雪夜は、頬を引きつらせつつゆっくりと夏樹の頭のてっぺんから足のつま先まで眺め、両手で頭を抱えると声にならない声をあげた。
「~~~~っ!?あああああの……ふ、服っ!……おおおお茶っ!……すすすすみませんんんん~~!!」
夏樹は雪夜を抱き留めるためにお茶を避けるのを諦めたので、服がびしょびしょになっていた。
因みに、腕だけで抱き留めたのは、雪夜が濡れないようにするためだ。
「あぁ……熱いお茶じゃないから大丈夫だよ?」
「そう言う問題じゃないですよぉおお~~~~っ!」
「え、そう?じゃあ~……あ、夏だから大丈夫だよ?」
「そう言う問題でもないですぅうううううう~~~!!」
「ははは……」
「笑い事じゃないですよぉおおお!?」
「俺の分もお茶持って来てくれようとしてたんでしょ?ありがとね」
「お礼なんて……結局全部零しちゃったし……夏樹さんにかけちゃったし……」
「風呂上りのクールダウンには丁度良かったよ?」
「そんなつもりで入れたんじゃないですぅううう~~~!!」
「だよね~。あははは!」
アタフタする雪夜が面白くてちょっとからかいつつ、夏樹は床に飛び散ったお茶を拭くために雑巾を手に取った。
「ああああああ!!俺っ!!俺がやりますっ!!拭くのは俺がっ!!あの、夏樹さんは服を着替えて下さい!!本当にごめんなさいっ!すみませんっ!!」
雪夜は慌てて夏樹から雑巾をもぎ取ると、半泣きで床を拭き始めた。
***
とりあえずTシャツを脱いだ夏樹は濡れた服を見ながらちょっと考えた。
主に濡れたのはTシャツで、スウェットパンツは少ししぶきが飛んだくらいだ。
まぁ、これくらいならドライヤーで乾かせば大丈夫か……
上は……別にもうこのままでいいかな……?
夏樹は濡れたTシャツを洗濯機に放り込むと、雑巾を持って戻り、雪夜と一緒に床を拭いた。
二人で拭けばあっという間に終わる。
「はい、もうきれいになったよ!ありがとね」
「こちらこそありがとうご……ふぇ?」
「ん?」
雪夜は上半身裸の夏樹を見て一瞬固まったあと、頭から湯気が出そうなくらい真っ赤になった。
うん、これでも俺たちさっきまでお互い真っ裸で一緒にお風呂に入ってたんですけどね!?
そんでもって、これからまた真っ裸になって、やることやるんですけどね!?
いつまで経っても慣れないってある意味スゴイ……
「あああの、ななな夏樹さん!?上の服は!?」
雪夜が慌てて横を向いてうずくまり、両手で顔を覆った。
「あぁ、どうせすぐに脱ぐからもういいかな~って」
「だだだダメですよっ!?」
「え、なんで?」
「だだだだって、えええっちなのはダメだと思いますっ!!」
「え……?いや、あの……雪夜さん?」
えっちなのはダメって……
「主に俺の心臓がもたないですっ!!」
「でも……じゃあ、このあとシないの?」
「シますっ!!」
んん?
「……ぶはっ!!」
えっちなのはダメだけど、えっちはするんだ?
よくわからない雪夜の言い分と勢いに思わず吹き出した。
「あ゛……違っ……いや、違わなくて……えっと、だから、し、します……けど……でもあの……今は……今は目のやり場に……困るのですよぅ……」
「え~?俺は別にマジマジと見てくれても構わないけど?」
「直視出来ませんんん~~!!」
「じゃあ、雪夜も脱ぐ?」
「ええっ!?」
「一緒に脱げばコワクナイ!ってね?」
「無理ぃいいいいいいいい~~~!」
「アハハ……はい、髪乾いたよ」
うずくまって顔を覆っている雪夜をからかいつつ、背後から雪夜の髪を乾かしていた夏樹は、ポンっと雪夜の頭を撫でた。
「あ……ありがとうございました……」
「どういたしまして。そうだ、雪夜、ちょっとこっちおいで」
「え?」
そのまますぐに寝室に行っても良かったのだが、雪夜がやらかして混乱している状態ではそういうムードにするのは大変なので、夏樹は少し雪夜を落ち着かせるために話しをしようとソファーに座った。
***
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