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夜明けの星 9-76(夏樹)

――なつ……さん……  ん? ――夏樹さん、大好き!  うん、ありがとう。俺もだよ……俺も大好きだよ。  雪夜がにっこり笑う。  これは夢だ……  瞬きをして目を開けると、別の雪夜が現れる。  現在の雪夜から、夏樹は見たことがないはずの子ども姿の雪夜まで……年齢は様々だ。  ちょっといたずらっぽく笑う雪夜……  満面の笑みの雪夜……  はにかむ雪夜……  真っ赤になって照れる雪夜……  いろんな雪夜が「夏樹さん、大好き」と言っては消えていく。  え、何これ。天国?  最高じゃないですかっ!!  あ~もう可愛いなぁ~……  チビ雪夜とかマジで天使だし……  夏樹は笑顔の雪夜に負けないくらい顔を綻ばせていた。  ところが……  こんな夢ならずっと見ていたいな……  夏樹がそんな風に思い始めると、徐々に雪夜の表情が変わり始めた……  辛そうに笑う雪夜……  困ったように笑う雪夜……  何かを言いたそうに夏樹を見つめて来るのに、夏樹と目が合うと言葉を飲み込んで微笑む雪夜……  そして……何回目かの瞬きの後、雪夜から表情が消えた……  雪夜は無表情で……それでも「なつきさん……だいすき……」と呟く……  どうしてそんな顔してるの……?  なにがあったの……?  雪夜、こっちにおいで?  雪夜に手を伸ばすが、雪夜はするりとその手をすり抜けていく。  なんで逃げるの……?  そんなに遠くにいたら……抱きしめることもできないよ……  やがて、雪夜の顔がくしゃっと崩れたかと思うと、大粒の涙が零れた…… ――……なつきさん……ごめんなさい……  「大好き」は、いつの間にか「ごめんなさい」になって……  泣きながら夏樹に謝る雪夜が、どんどん遠ざかっていく。  待って!どこに行くの?俺はここだよ!?  俺はここに……いるのに……  俺を置いて……どこに……――?  ハッと気が付くと、遠ざかっていたはずの雪夜が近くにいた。 「――ごめんなさい……ごめんなさ……」 「雪夜っ!!」  夏樹は必死に手を伸ばした。  目の前で泣く雪夜の手首をパシッと掴むとグイッと引き寄せる。  捕まえたっ!!    「ふぇっ!?……なつきさ……」 「どうしたの?なんで泣いてるの……?」  雪夜の瞳から零れる涙を指で拭って、頬から耳元、顎へと指を滑らせる。 「っ……あ、あの……なつきさ……んっ!?」 「泣かないで……」 「んむっ!?……っぁ……」  離したくない……  離れたくない……  この口唇を離してしまえば雪夜が消えてしまいそうで……  雪夜の存在を確かめていたくて……  肌で感じていたくて……  夏樹は雪夜にキスをし続けた―― *** 「――はいはい、元気なのはわかったからちょっと落ち着け。(さか)りすぎだ!」  呆れたような声と共に、突然肩に痛みが走った。  誰かに思いっきり肩を叩かれたらしい。 「……ってぇ!?」    え!?なんだ!?どういうこと!?  夏樹が慌てて振り返ろうとすると、同時に背後から襟首を引っ張られて上半身を起こされ、顎を掴まれてグイッと横を向かされた。 「お~はよ!気分はどうだ?」 「い……斎さん!?え、なんで……気分!?なにが!?」 「なんだ、覚えてねぇの?ほら、思い出してみ?今日は朝から何してた?」 「へ?今日……?」  斎に言われて思い出そうとするが、いまいち思い出せなくて首を傾げる。 「混乱してんな。んじゃ、順を追って話してやるから、とりあえず……雪ちゃんの上から退いてやれ」  斎がピッと指を下に向けた。 「へ?」  斎の指につられて下を見ると、雪夜がぐったりと横たわっていた。 「雪夜!?だ、大丈夫!?え、どういうこと!?」  慌てて雪夜の上から飛び退いて雪夜を抱き起す。 「どういうことも何も、今お前が思いっきりキスしてたじゃねぇか」  キス!?  そういえば……したような……  無我夢中だったので自分でもどれくらいの時間、どんなキスをしていたのかなんて覚えていないが……    よく見ると、喘ぐように呼吸をする雪夜の頬は少し火照っていて表情は……とろんととろけていた。  夏樹のキスのせいで気持ち良くなっただけらしい。 「え、でもあれは夢で……あれ?え、待ってどこから現実?」 「なんだ、良い夢でも見てたのか?」  斎は苦笑しつつベッドサイドに腰かけた。  夏樹は、混乱しつつもハッとして雪夜の顔を斎から隠すように自分の肩口に埋めて背中を撫でた。  相手が誰だろうと、雪夜のはあまり見られたくない。  斎もわかっているからか、夏樹の行動には何もツッコまなかった。 「あの、それで何があったんですか?」 「あぁ、それが……――」 ***

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