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夜明けの星 9-78(夏樹)

――うん、まぁそんなとこだな。まったく、急にド派手な音がして雪ちゃんの叫び声がしたからビックリしたぞ?雪ちゃんに何かあったのかと思って慌てて駆けつけたら、まさかのお前が倒れてるし……」  斎がため息を吐いた。   「……そ、そうだ!斎さん、雪夜に怪我は!?」 「雪ちゃんならかすり傷一つないよ。そこにいるんだからたしかめてみればいいだろ?」 「え?あ、そうか……」  夏樹は腕の中で寝息をたてている雪夜を起こさないように、顔や頭をペタペタと撫でまわした。  うん、たしかにケガはなさそうだ。 「良かった……」 「良くねぇよバカ。雪ちゃん、「夏樹さんがしんじゃうっ!!」って、パニクって大変だったんだぞ?それに――」 「あ゛……」  斎たちが駆けつけた時、雪夜は半狂乱で夏樹に縋り付いていたらしい。 「雪ちゃんはえらいぞ。それでも俺たちに何があったのか説明してくれたからな。何言ってるのかは全然わからなかったけど……まぁ、あの現場を見れば一目瞭然ってな」 「そう……ですか……」  何やってんだ俺……また雪夜を不安にさせて…… 「んで、ナツは頭痛や吐き気はないのか?」 「え?あぁ、ちょっとたんこぶの辺りが痛いですけど、大丈夫ですよ。っていうか、そんなエグイのが落ちてきたのに、たんこぶだけって俺すごくないですか?」 「あ゛?はいはい、すごいすごい。まぁ、たぶん、たんこぶの位置からしてうまくんだろ」 「逃がした……んですかね?あんまり覚えてないけど……」  斎が言うには、恐らく回転式麺棒が落ちて来た時に、頭に当たる瞬間無意識に衝撃を和らげるように軽く頭を下げつつ受け止め、すぐに頭を起こして背中の方に転がしたので、頭自体には掠った程度の衝撃で済んだんじゃないか……ということだった。   「愛ちゃんに感謝しとけ。愛ちゃんに特訓された内容が知らず知らずのうちに身についてんだよ」 「ふぇぇ~い」  夏樹はたんこぶを撫でながら愛華の地獄の特訓をチラッと思い返した。    まぁ……たしかに……“生き残る”ための動きをたくさん仕込まれたっけ……  うん、そうだな。  愛ちゃんの特訓に比べれば調理器具が降ってくるくらい可愛いもんだな。  ん?っていうか…… 「そもそもなんで雪夜があんなところに……?斎さんたちといたんじゃないんですか!?」 「あぁ、いや、あの直前まで一緒にいたんだが、ちょうど電話がかかってきて……」  斎は直前まで雪夜と一緒にいたらしいが、仕事の電話がかかってきたのであの時はリハビリ室の方で電話に出ていたのだとか。 「雪ちゃんには、ちょっと待っててくれって言ってあったんだけどなぁ……」  斎がちょっと気まずそうに頭を掻いた。   「斎さんが電話に出て雪夜の傍を離れたのはわかりましたけど、なんでキッチンにいたんですか?」 「ん~?あぁ、ちょっとお手伝いをな……」 「お手伝い……?」  そういえば昼前だったから……雪夜も昼飯の用意を手伝おうとしてたのか?    雪夜は兄さん連中が集まると、みんなが喜んでくれるから、とおにぎりや卵焼きを作る。  斎や隆がいる時には、新しい料理の作り方を教えてもらいつつ、お手伝いすることも多い。  だから今日も、何か新しい料理を教えてもらうつもりだったのかもしれない。  でも、斎さんは電話に出てたとして、隆さんは?  いつもなら隆さんも一緒に雪夜に教えてるはずなのに…… 「タカも俺と一緒にリハビリ室の方にいたんだよ」 「あぁ……なるほど……」  仕事の電話というのは副業の方か。   「雪夜は何を取ろうとしていたんですか?」 「ん?いや、それは俺もわからねぇよ」 「そうですか……」  雪夜の行動はイマイチ謎だが、まぁとにかく…… 「雪夜にケガがなくて良かった……」 「お前もな」  斎が軽く夏樹の額を弾いた。 「あ゛!……っすね」  夏樹は斎に苦笑いをした。 ***

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