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夜明けの星 9-80(夏樹)

 雪夜は夏樹のたんこぶが小さくなったので安心したのか、二日ほどで落ち着いた。  夏樹は、「仕事中、カメラに入らない位置にいてくれれば、一緒にいても大丈夫だよ」と、雪夜も母屋に連れて行こうとしたが、元に戻った雪夜には「あ、大丈夫です。終わるまでこっちで待ってます」と笑顔で断られてしまった。  子ども雪夜とのこのギャップ……ははは、寂しいっ!!  夏樹が浩二たちと仕事をしている間、雪夜には斎がついていてくれることになった。  口にはしないが斎は雪夜から目を離していたことについて責任を感じているらしく、何気に夏樹の体調も心配してずっと残ってくれているのだ。  だが、夏樹は今回のことは自分の判断が甘かったせいで、斎や隆に責任があるとは思っていない。  そもそも、子ども雪夜ならともかく、あの時の雪夜は一応大学生の状態だった。  「ちょっと電話してくるから、座って待っていてね」と言われて、待てない年齢ではない。  しかも、長時間待たされたというわけでもなく、斎たちが電話に出るためにリビングを出てからわずか数分後の出来事だ。  一番の謎は雪夜が何を取ろうとしていたのか、という点だが、元に戻った雪夜に聞いても、よく覚えていない……とはぐらかされてしまった。    まぁ……別に言いたくないならいいんだけどね……  どうせ、あの棚に入っていたのは調理器具だけだし。  普段使う調理器具は雪夜でもすぐに取り出せる場所に置いてある。  それなのに、わざわざあの棚を覗いていたというのがどうにも解せなくてちょっと気になっただけだ……  あれから、雪夜はキッチンに立つのを少し怖がるようになった。  ひとり、もしくは斎たちと一緒には立てるが、夏樹が行くと慌ててキッチンから出る。  ん?キッチンが怖いんじゃなくて、俺と一緒に立つのがイヤってこと?  俺と一緒にいると上からまた何かが降って来るとでも思っているのかな……?  え、ちょっと待って!?もしかして俺って疫病神か何かだと思われてる!?  いや、キッチン以外では普通に傍に寄って来てくれるんだから、それはない……はず……?    でもたしかに……  俺と出会ってから、雪夜は一体何回事故や事件に巻き込まれたんだろう……  隣人トラブルや緑川に関しては、夏樹のせいではないけれど、でも……夏樹がもう少し気を付けてやっていれば守れたはずだった……  客船事故や……実家での落下事故は……完全に夏樹のせいだ。    雪夜は俺と出会わなければ、もっと平和に過ごせていたのかな~…… 「――い、おい、ナツ!!」  ぼんやり考えていると、浩二に膝を叩かれた。 「え?あ、はい。何ですか?」 「何ですか?じゃねぇよ。もう終わるぞ?」 「あ……はい。えっと、お疲れ様です――」  気が付くと、終了時間になっていた。  マダムが参加するパーティーは明日の昼だ。  浩二と裕也はこれからマダムの家に行って最終の打ち合わせをすることになっている。  夏樹は研修生たちに簡単に話しをすると通話を切った。 「大丈夫か?頭痛いのか?」  ノートパソコンを閉じると、浩二が頭を軽く撫でて来た。 「いえ、大丈夫です。ちょっとボーっとしていて……」 「そうか……とりあえず、お前の仕事は終わりだ。今日はゆっくり休め」 「ふぁ~い。明日よろしくお願いします。仕方ないとは言え、やはり研修生ばかりというのはキツそうですね……初めて現場に出るという人も多そうですし」 「今のところ、明日のパーティーではそこまで危険なことはなさそうだから、ひよっこちゃんたちを連れて行くにはちょうどいいよ。ま、彼らを残すかどうか見極めるのにはちょうどいいかもね~」 「ははは、そこらへんは裕也さんに任せますよ――」  夏樹たちは和やかに話をしつつも手早く片付けると、娯楽棟に戻った。 ***

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