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夜明けの星 9-84(夏樹)
雪夜が母屋に向かうのを見届けた夏樹は、リビングに戻るとタブレットを手に取った。
雪夜の希望通りにひとりで行かせたのは、カメラで様子を見ることが出来るからだ。
ところが……
「あれ?……ちょ……嘘だろ!?……っんだよっ!!」
母屋のリビングを映しているはずのカメラ映像を見ようとした夏樹は、思わず悪態を吐いた。
いくつか仕掛けられているカメラは、どれも壁や床ばかり映していたからだ。
裕也さんが弄ったのか?
この別荘の監視カメラはすべて裕也が仕掛けている。
不定期かつ不規則に裕也が位置を変えているので、正確な数や仕掛けている場所は他の人間は知らない。
そして、どれだけカメラの位置を変えたとしても、裕也の頭の中には別荘内外の詳しい間取り図などが入っているので、毎回映像に死角はない。
それなのに、今リビングにあるカメラは死角どころか、監視カメラとしての機能を果たしていない。
音声だけはちゃんと入るようだが、これでは雪夜が一体どこで何をしているのかが全然わからない。
これだけすべてのカメラがあらぬ方向を向いてるということは、どう考えても裕也が自分でカメラの位置をずらしたとしか考えられないわけだが……
ということは、裕也さんは雪夜が今日母屋に行くことを知ってたってことか……
そんでもって、俺がこうやって雪夜の様子を覗き見ようとすることも読まれていたということですね!?
でもさ、普通……気になるだろっ!?
雪夜をひとりで行かせるとか心配だしっ!?
そりゃあね?雪夜が母屋で何をしてもいいんだよ?
今はまだ以前のように自由に外を出歩くことが出来ないんだから、せめて別荘内では雪夜の好きなようにさせてやりたいと思ってるし、そうしているつもりだ。
ただ……今日みたいな、天気も雪夜も不安定な状況でひとりにするのは……
「あ……」
そうか……
今日は当初の予定では斎さんが来るはずだった。
本当は斎さんが雪夜と一緒に母屋に行くはずだったってことか……
いくら裕也さんでも、別荘内とは言え雪夜をひとりっきりにするようなことはしないはずだ。
予定では斎さんが一緒にいるはずだったから、危険はないと判断してカメラの向きを弄ったんだ。
つまり、雪夜がひとりで母屋に行くことになったのは裕也にとって予定外だということだ。
とは言え、裕也のことだから本当にすべてのカメラを背けたわけではなく、数個のカメラは念のために雪夜の様子がわかるようにしてあるはずだ……あるはずなんだ!あってくださいお願いしますっ!!
「……ぉっと?」
夏樹が心の中で祈りつつ、どうにかリビングの雪夜の様子がわかるカメラはないのかと探していると、窓の外がピカッと光った。
その瞬間、イヤホンから雪夜の悲鳴が聞こえた。
悲鳴と言っても、小さく「ヒュッ!!」と息を吞む音が聞こえただけだったが……
恐らく、外では雷の音もしているはずだが、今のところ雷の音はほとんど聞こえてこない。
母屋も防音対策はしっかりしているので、音楽を聴いている雪夜には、雷の音は全然聞こえていないはずだ。
でも……音はそれでどうにか出来ても、稲光はイヤでも目に入って来るんだよね……
さっきの感じだと、たぶん雪夜は固まってるな……
すぐに様子を見に行きたかったが、何かあれば知らせてね?と言ってあるので、しばらく待ってみる。
だが、ブザーの音も助けを求める声も聞こえてはこない……
助けが呼べないのか、それとも持ち直したのか……どっちだ?
ぅ~~!!ダメだ!やっぱり心配だっ!!
こっそり母屋に様子を見に行こう!と立ち上がった瞬間、今度はさっきよりもはっきりと強く光った――
***
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