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夜明けの星 9-87(夏樹)

 リビングに入った夏樹は、窓際に連れて行かれて、ソファーに座らされていた。  そこにいると直接雪夜を見ることは出来ないが、音や気配で雪夜がリビングのどの辺りにいるのかはわかる。  それにしても……「夏樹さんはここでお外見てて!」って言われたけど……カーテンのせいで見えないんだよな~……透視しろってことかな?  母屋のリビングは池のある裏庭とは反対側の、駐車場がある側に掃き出し窓がある。  裏庭ほど山の中という感じはしないが、雪夜がこっちのリビングを使う時にはなるべく外が見えないように遮光カーテンで隠している。  だが、今日は雪夜がひとりで来たので普通のカーテンだけになっていた。  そのせいで稲光が見えちゃったんだな。    遮光カーテンを閉めようかと思ったが、雪夜にそこから動くなと言われているので大人しく座って待つことにした。  カーテンを少し捲って隙間から外を眺めてみる。  窓ガラスに雨が激しく打ち付けているので、景色はほとんど見えない。  ん~~~……暇ッ!!  夏樹は大きく両手を上にあげて伸びをすると、そのままソファーに深々と身を沈め、耳だけ背後に集中させて雪夜の様子を窺った。   「……んっ……~~~っ!!はぁ……硬い……っ……こんなのむりだよぉ……ぁっ……はいんない……どうしよう……――」  夏樹の耳に雪夜のひとり言が聞こえて来る。  途切れ途切れの言葉が、抑え気味の声が……暇過ぎる夏樹のを無駄にかき立てた。  声を抑えてるせいで、漏れる吐息がやけに色っぽいんだよな~……  硬いんだ~?へぇ~……――  入らないの?ふ~ん……――  ……じゃあ――  って、いやいや、何考えてんだ俺は……!!  どうしよう……は俺のセリフだよっ!?  そもそも、声だけなのが悪い!!  声だけだから、妄想が広がるわけで……  あ~もう!これ一体どんな焦らしプレイ!?  くっそっ!!子ども雪夜じゃなければ……――っ!! 「んん゛!」  夏樹は咳払いをすると、深呼吸をして心を無にしながら窓に当たる雨粒の音に集中することにした。  ……あぁ、そういえば……あの時もこんな雨だったな……―― ***  ――夏樹さん……ごめ……な……い……  ……雪……――っ!! 「……っ!?」  それからどのくらい経ったのか……  雨音を聞きながらいつの間にかウトウトしていたらしい。  夢か…… 「……ん?」  慣れ親しんだ温もりと重みを感じて夏樹が目を開けると、胸元に雪夜が抱きついていた。  あれ……?  夏樹は、寝惚け眼で雪夜の背中に手を回して抱きしめた。 「ゆ~きや?どうしたの?」  抱きついてくれるのは嬉しいが、心なしか雪夜の元気がない。    また稲光かな? 「……なぃ……」 「ん?」 「じょうじゅにできないぃ~~~……」  雪夜は涙交じりに呟いた。  どうやらしようとしていることが、思うように出来なくて落ち込んでいるらしい。    雪夜が弱音を吐くなんて珍しいな…… 「上手に出来ないの?」 「……ぅん……」 「そっかぁ……ねぇ、雪夜。それはどうしても今しなきゃいけない?たぶん、明日か明後日にはまた斎さんが来てくれると思うよ?その時じゃダメなの?」  もう夏樹には雪夜が何をしようとしているのかは薄々わかっている。  だが、なぜなのかがわからない。  斎と一緒にするはずだったのなら、無理に今日ひとりでしなくても……   「だ、ダメ!!ダメなの!!きょうなの!!」  やけに今日にこだわるな~…… 「今日じゃなきゃダメなんだ?う~ん……何が上手に出来ないの?」 「あのね、あの……――」 「うん、うん……そっかぁ……それならね、こうしてみればいいよ――」  夏樹には内緒なはずなのだが、落ち込んで子ども雪夜が前に出て来ているせいか、雪夜は出来ないことを夏樹に話してくれた。    え~っと……雪夜くん?それ、俺に話しちゃっていいの?  いや、聞いたのは俺なんだけどね?  あれだけ必死に隠そうとしてたクセに、結局内緒に出来ていないところがなんとも……可愛すぎるよねっ!!  夏樹はにやけそうになるのを必死で堪えながら雪夜にアドバイスをした。 「……雪夜ならちゃんと出来るよ。大丈夫。焦らずにゆっくりやってごらん?」 「……ぁぃ……」  雪夜のは夏樹の予想通りだった。  夏樹がアドバイスをすると、雪夜は目を擦りながら「やってみる!」と夏樹から離れて戻って行った。    雪夜はその後も、空が光って怖くなったり、わからなくなって落ち込んだりすると夏樹に抱きついてきて、夏樹が抱きしめ返すと「がんばる!」とまた戻っていく……という行動を数回繰り返した。  う~ん、なんというか、俺はゲームで言う、回復ポイントみたいな感じなのかな?  まぁ、俺に抱きつくことで雪夜が元気になってくれるなら何よりです!  雪夜が抱きついてくれると俺も癒されるしね! *** 「できたっ!!」  そんなこんなで、およそ3時間後。  ようやく雪夜が嬉しそうに叫んだ。  稲光に怯えている時や落ち込んでいる時は子ども雪夜が出て来てグズグズだったが、それ以外では大学生の雪夜が主に頑張っていたようだ。 「お?出来た?」  夏樹はカーテンを眺めながら雪夜に話しかけた。 「はい!!」 「良かったね。お疲れ様!じゃあ、こっちおいで~!頑張った雪夜くんをぎゅっ~させて?」 「は~い!!あ、ちょっと待ってくださいね!?」 「はいはーい」  っていうか、俺はいつまでカーテンを眺めていればいいのかな?  夏樹が振り向こうか迷っている間に、雪夜が急ぎ足で夏樹の前にやって来た。   「お待たせしました!――!!」 「……え?」 ***  

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