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夜明けの星 9-96(夏樹)

「いっしょに?……なつきさんもねぇねのところいくの?えっと……でも、ゆきやがいなくなればオニさんはなおるんだよ?」  雪夜が肩につきそうなほど首を傾げた。   「あのね、雪夜。ねぇねのところにいくってことはね、雪夜はもう俺とは会えないってことなんだよ?俺が人間に戻っても、もう会うことが出来ないんだ」 「……ぅん……」  雪夜がしょんぼりとうつむいた。  一応、雪夜も何となくはわかっているらしい。  まぁ、そうだよね……  だからこそ、最後にみんなに会って「だいすき」や「ありがとう」を伝えたり、夏樹に甘えたりしていたわけだし……  命を絶つことに恐怖心がないだけで、命を絶つことの意味はわかってるってことかな……?  いや、それはそれで…… 「雪夜は……それでいいの?俺に会えなくなってもいいの?」 「いくない!!……いくないよ!?だけど……みんながオニさんなるのはゆきやのせいで……ゆきやがいなくなればだいじょうぶだから……」 「っ雪夜のせいじゃないよ!俺がオニさんになったのは雪夜のせいじゃないんだ。まっくろくろのオニさんのせいだよっ!!」  叫んでから、夏樹は心の中で自分自身に舌打ちをした。  さっき勢いで姉のことを話してしまって、後悔したばかりなのに……  こんな話をすれば、雪夜をまた混乱させてしまう……! 「まっくろくろのオニさんの……せい?」  雪夜が困惑しているのがわかったが、今更どうしようもない。  下手に言い直すと不信感を抱かせてしまう。  少し迷ったものの、夏樹はこのまま話を進めていくことにした。   「うん。まっくろくろのオニさんはいじわるの大嘘つきだからね。ねぇねのことだって嘘ついてたでしょ?」 「で、でも……ねぇねは……ゆきやがどーんして……あれ?……ちがう……ねぇねがどーんして……ねぇねはゆきやのせいで……ゆきやは“ひとごろし”で……ねぇねがよんでるから……いかなきゃ……みんながオニさんになって……オニさんはゆきやがわるいこで……ぅ゛~~~っ!――っ!!」 「雪夜っ!!」  うつむいて唸っていた雪夜が突然叫んで自分の頭をポカポカ叩き出したので、慌てて雪夜の手を掴んで抱きしめた。  犯人のこと、姉のこと、雪夜の記憶にあることと夏樹が告げた真実とのギャップと矛盾に戸惑い、頭の中にまっくろくろのオニさんとねぇねの言葉が次々と覆いかぶさってきて、キャパオーバー状態になったらしい。 「ぅ゛~~~~っ!!――っっ!!」 「シィ~~~……よしよし、大丈夫だから、落ち着いて。ここには夏樹さんしかいない。夏樹さんの声しかしてないよ?ほら、よく聞いて……」  夏樹は暴れる雪夜の顔を胸元にぎゅっと押し付けた。  雪夜は最初は暴れて奇声をあげていたものの、夏樹の声と心音に安心したのか、しばらくすると何とか落ち着いた。   *** 「……急にいろいろ言われても困るよね。でもね……俺が……夏樹さんが言ったのは嘘じゃないよ。本当に雪夜のせいじゃないんだ。夏樹さんを信じて……――」  大学生の雪夜は夏樹の言葉を信じてくれているようだが、子ども雪夜にとってはまっくろくろのオニさんの存在が絶対的かつ強大過ぎて、夏樹の言葉がなかなか響いてくれない。  監禁され極限状態で刷り込まれた言霊(呪い)はあまりにも根深い……  その上、現在の雪夜の精神年齢がコロコロ変わるので、その度に理解度も信頼度も変わるため、会話は堂々巡りで進まない。  それでも、夏樹は雪夜を抱きしめて落ち着かせつつ、根気強く話をした。 「うん、あのね、俺はね……雪夜のことが大好きだから、雪夜がいないと寂しい。雪夜がいない世界で人間に戻っても……俺は全然嬉しくないよ。俺は雪夜とずっと一緒にいたいんだ。だから、雪夜がねぇねのところにいくなら、俺も一緒にいくよ。でもね、そもそも……俺はオニさんのままでもいいんだよ――」  なるべく簡単な言葉を選んで、落ち着いたトーンで話す。  子ども雪夜でも理解できるように……  少しでも雪夜の心に響くように……  さすがに、素人の夏樹が雪夜にかけられた言霊(呪い)を解けるだとは思っていない。  でも、せめて……  雪夜がいなくなれば大丈夫……その考えは間違っている。  ねぇねがしんだのもみんながオニになったのも雪夜のせい……それは雪夜のせいじゃない。全部まっくろくろのオニさんのせい。  せめてこの二つについては、夏樹の言葉を信じてほしい。  雪夜は何も悪くないんだ……  雪夜が命を絶つ必要はないんだ……  雪夜がいないと……ダメなんだよ……  本当に俺を助けたいと思うのなら……  本当に俺のことが大切だと思うのなら……  俺と一緒に……―― ***

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