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夜明けの星 9-99(雪夜)

 時折……記憶があいまいになる……  夢と現実が交錯して……  白の世界と黒の世界……にポツンと取り残される……  こどものゆきやと  大人の雪夜と  ホントのじぶんはどっち……?  ぐちゃぐちゃになってわけがわからない  カラフルなせかい……には、オニさんがいっぱいで……  だけど、みんなやさしくて……みんなわらってて……みんなあったかい……  くろのせかいはオニさんはひとり……なのに……  こわい……いたい……くるしい……いきが……できない……こえが……だせない……     黒の世界は……何度もオニさんに追いかけられる  オニさんからは逃げられない  もう……どこに逃げればいいのかわからない……  前も後ろもわからない……  足を止めると、どんどん黒に浸食されていく  みんなのかおがなくなっていく……  みんなのこえがなくなっていく……  みんながオニさんになっていく……  色なんて……さいしょからなかった……?  ずっとまっくろ……くろしかない……  みんな……いない……  ずっと……ひとり……だった? ――……っ!  目を閉じると……  まっくろくろのオニさんのこえ……  ねぇねのこえ……  頭の中にガンガン響いてくる……  どならないで……おこらないで……きこえてるよ……ちゃんときくから……いいこにするから……もうにげないよ……    ゆきやはわるいこ……  ゆきやはダメなこ……  ゆきやのせいでみんながオニさんになるの……  ゆきやがいなくなれば、みんなもとにもどるの……――    いなくなる?どこから……? ――……ゆきやっ!  ……だれ?  きいたことがある……こえ……  どこで……?  そうだ、これは夏樹さんの声……  温かくて、優しくて、心地良くて……安心する  夏樹さんはぎゅってしてくれて……  よしよししてくれて……  大丈夫だよって笑ってくれるの……  なつきさんはオニさんじゃない……  なつきさんは……  なつきさん……?  ぃやだ……だめだよ……っ!  夏樹さんはオニさんにならないで……っ!!  なつきさんはオニさんになっちゃイヤだっ!!  これもゆきやのせい……?  ソバニ……イチャダメ……ダ…… ――……いいんだよ  ……え? ――……俺はこのままでも……オニさんでもいいんだよ  オニさんでも……いいの? ――……オニさんの俺は怖い?  オニさんはこわい……  でも……  なつきさんなら……  きっと……  オニさんになっても……  こわくない……こわくないよっ!!  だけど……だけどゆきやは……ゆきやのせいだから……  いきてちゃダメって……  オニさんもねぇねもダメって……  ゆきやばっかりダメだって……  ゆきやはわるいこだって…… ――……生きててもいいんだよ  ……いいの? ――……幸せになってもいいんだよ  ……いいの? ――……ねぇねの言葉になんか縛られなくていい。  ……え? ――……まっくろくろのオニさんの言葉になんか囚われなくていい。    ……いいの? ――……雪夜はひとりじゃないよ……  ゆきやはひとりだよ……  だって……ここはまっくらでだれもいない……  オニさんとねぇねしか……いないの…… ――……雪夜は……誰といたいの?  だれと……?  ゆきやは……  ほんとうは……ほんとうは……  なつきさんと……いたい……っ!!   ***  次の瞬間、黒の世界にひとつの星が灯った。  ひとつだけ……  でも、大きくて明るくて眩しい……  あれ……?  このお星さま……見たことある……  どこで……? ――……おいで  声と一緒に星が瞬く  え? ――……逃げておいで  にげる?  でも……どこににげればいいのかわからない……こわいよ…… ――……雪夜、こっちにおいで……俺がいるから……夏樹さんがいるから大丈夫だよ  なつきさんがいるから……? ――……俺を信じて……  しんじる……?  ゆきやがしんじるのは…… ――……雪夜、誰よりも……てるよ……  なあに?きこえないよ? ――……よ……  っ!!  そうだ……ゆきやは……俺は……知ってる!    あの星は……    雪夜は星に向かって走り出した。  長い長い夢の中……  真っ暗な闇の中……  まっくろくろのオニさんから助けてくれるのは……  いつだって……  この声で……  あの光で……    何があっても、助けに来てくれるって……  何があっても、傍にいてくれるって……  何があっても、いつだって、愛してるって……っ!!  いつかのように……  手を伸ばす。  眩しくて温かい光に向かって……  一生懸命手を伸ばす。  星は近くに見えるのに、すぐそこにあるのになかなか届かない。  息が切れて……  苦しくて……  背後からは追いかけて来るオニさんの気配がした。  でも、不思議と怖くはない。  だって……  この光の先には……  きっと……  ナツキサン……ッ!! ――……っ!!  雪夜が声を振り絞って叫ぶと、光が大きくなって中から手が伸びてきた。  雪夜は、その手に抱きしめられるように真っ白い光に包まれていった――…… *** ――……あれ……?ここは……?  光に飛び込んだはずなのに、雪夜が目を開けると周囲は暗かった。    さっきのは……ゆめ……? 「――っ!」  だれ……?  雪夜は誰かに抱きかかえられていた。    まっくろくろのオニさん……?  また……つかまっちゃった……?    絶望と諦めのため息が口から零れかけた。 「雪夜っ!!」  違う……っ!!  この声は…… 「なつ……き……さん?」 「うん、そうだよ」  ほんのりとライトが当たって顔が見えた。 「俺……なんで……?ここ……どこ?」 「……ここは別荘だよ」 「べ……っそう……?」  別荘……?こんなに暗かったっけ……? 「雪夜……おかえりっ!」  夏樹が額をくっつけて微笑んだ。 「た……だいま?え、あの……俺一体……」 「あぁ、えっとね……」  俺、なんでこんなところにい……っ!?  雪夜に状況を説明しようと夏樹が顔を離して身体を起こした。  その拍子に、夏樹の肩越しに夜空が見えた。 「……わぁ……っ……」  雪夜は目の前に広がる景色にひゅっと息を呑んだ。 「ん?あぁ……すごいね……」  つられて夜空を見上げた夏樹が、同じように感嘆の声を漏らす。 「満天の星空だね。星に手が届きそう……」  夏樹が空に向かって手を伸ばす。  雪夜も空に向かって手を伸ばした。  たったひとつの星を追いかけて……  必死に走って走って……  手を伸ばした先にあったのは…… 「届いたっ!」 「え?」    手を伸ばした雪夜は、夏樹の手を掴んでいた。 「でいいの?」 「はい!」  俺にとっての星は……ひとつだけ。  どんな星よりも大きくて明るくて眩しい……―― ***

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