674 / 715
SS4【かき氷パーティー(前篇)】
「うわぁ~!真っ白になりましたよ!?雪みたいですね!!すご~い!きれい!」
夏樹の隣で雪夜が声を弾ませた。
透明の氷が削られて白くなるのが面白いらしい。
夏樹たちにしてみれば、かき氷というのはそういうものだと思って気にしたことがなかったので、雪夜が瞳をキラキラさせながら不思議がる様子が新鮮だった。
***
数日前のこと。
トラウマのせいでお祭りに行ったことのない雪夜は、屋台で売っているかき氷を食べたことがないと知った兄さん連中が、「せっかくだから目の前で作ってやろう」と張り切った。
その結果、みんなでかき氷パーティーをすることになったのだ。
そして今朝方、浩二 と隆 が業務用の大きなブロック氷と電動かき氷機を、斎 がシロップや果物などのトッピングを持ってきてくれた。
雪夜は「すご~い!!この氷めちゃくちゃ大きいですね!南極の氷みたい!!」とブロック氷に興味津々で、その反応だけでも兄さん連中は満足顔だった。
「――それじゃあ、かき氷作るよ~!ちょっと音がするから、雪夜は慣れるまで軽く耳塞いでいてね」
「え!?あ、はい!」
雪夜が慌てて両手で耳を塞いだ。
モーター音はそんなに大きい音ではないにしても雪夜にしてみれば氷を削る音は初めて聞く音なので、念のためにトラウマ対策として徐々に慣らしていく必要があるのだ。
だが、最初はちょっと怯えていたものの、氷が削られていく様子を見た雪夜は音など気にならないくらいかき氷に夢中になっていた。
「わぁ~!光が当たるとキラキラしてますよ~!ふわふわだ~!」
初かき氷はでっかいのを作ってあげたかったが、せっかくなのでいろんな味を試せるように、雪夜には小さめの器に少しだけ盛りつけた。
「はい、お待たせ雪夜!トッピングは自分で好きなの選んで。食べられそうなら何回でもおかわりしていいからね!」
「は~い!お~!トッピングいっぱいある~!どれにしようかなぁ~……」
「雪ちゃん、やっぱり最初はコレだぞ!」
「いや、最初はこっちだろ!?かき氷の定番!」
「だから、定番はこっちだって!」
兄さん連中がメロン派とブルーハワイ派に分かれて言い合いを始めた。
実にくだらない。
そんなの、最初はイチゴに決まってるだろう!?
「ほら、佐々木、相川、出来たぞ。持っていけ!」
「「あざ~っす!」」
雪夜の次に並んで待っていた二人はそれぞれにかき氷を持つと、兄さん連中に囲まれている雪夜の両サイドにグイグイ割り込んだ。
「雪ちゃ~ん、何味にするか決まった?」
「う~ん、まだ悩み中……どれも美味しそうだし……相川たちはどれにするの~?」
「俺は……グレープにしようかな。ぶどう美味そうだし!翠 はみぞれだよな?」
「あ~、いつもはそうだけど……でも今日は抹茶にしようかな~……」
「佐々木、抹茶苦くない?」
「苦くないよ。あんこやホイップと組み合わせれば甘くてうまいぞ~?」
佐々木がニヤッと笑いながら自分のかき氷に抹茶シロップをかけ、粒あんとホイップを盛りつける。
相川はそれを横目にグレープシロップとぶどう果実を大量に盛りつけていく。
そんな二人の様子に雪夜が慌てた。
「えっ!?そそそんなにいっぱい乗せていいの!?」
どうやら雪夜は一つのかき氷につきトッピングは一つだと勘違いしていたらしい。
「ゆ~きや!」
夏樹は佐々木たちのかき氷に目を丸くしている雪夜を背後から軽く抱きしめた。
「わわっ!?あ、夏樹さん!!」
チラッと夏樹を見上げて雪夜がホッとしたように笑う。
「はい、夏樹さんですよ~。あ、ちょっとかき氷置かせてね」
「あ、は、はい!」
自分のかき氷をテーブルに置いて雪夜を両手で抱きしめ直した。
「お~いナツ!俺らのかき氷は?」
「セルフサービスです。兄さんらは自分で好きなだけどうぞ」
「はあ!?なんだよ~、ついでに作ってくれてもいいじゃねぇか」
「浩二さん、俺よりも裕也さんの方が上手いですよ。頼んでみればいいじゃないですか」
「それもそうか、おいユウ!俺の分もやってくれ!」
「いいよ~ん」
夏樹の次にかき氷機の前に立った裕也は、嬉々としてかき氷のデカ盛りを大量生産していた。
他の兄さん連中の分も作ってくれているのを確認して、夏樹はまた雪夜に視線を移した。
「雪夜、トッピングはセルフだから自分が好きに乗せていいんだよ。食べたい物を好きなだけ乗せていいんだ」
「好きなだけ……ですか?」
「うん、まだまだトッピングはいっぱいあるから心配しなくても大丈夫だよ!ちゃんとみんなの分あるからね!雪夜は何が食べたい?」
「えっと、あの……いっぱいありすぎて……あの、夏樹さん……」
「ん?」
「笑わないでくださいね?あのね……ぶ、ブルーハワイってどんな味なんですか?」
みんなに聞かれたくなかったのか、雪夜は夏樹の腕の中でくるりと向きを変え、夏樹の耳元に口を寄せてそっと聞いてきた。
「あ~……えっとね、ぶっちゃけここにあるシロップは基本的に全部同じものだよ。色が違うのと、香料とかが少し違うだけ。で、ブルーハワイは……う~ん、たしかメーカーによっても違うんだよな~……まぁ、食べて見ればわかるよ」
夏樹はハッキリと答えてあげられない自分に苦笑いをしながら雪夜の耳元に囁き返した。
隣にいる佐々木たちには聞こえているはずだが、二人とも聞こえていないフリで自分のかき氷を盛りつけていた。
おい、ちょっとくらい助けてくれても良くないか?
「全部同じ!?え……でもそれならどうしてお兄さんたちは……」
兄さん連中がメロン派とブルーハワイ派で言い合っていた意味がわからない……と雪夜が首を傾げた。
うん、そうだよね。不思議に思うよね。
「それもね、食べてみればわかるよ」
夏樹はちょっといたずらっぽく微笑みかけた。
「え……?」
「それで、雪夜は何味にする?かき氷はおかわりすればいいんだし、片っ端から試してみてもいいよ?」
「えっと……そ、それじゃあ……夏樹さんと同じやつがいい……」
「イチゴ?いいよ~。どうせならイチゴミルクにする?」
「イチゴミルク!?美味しそうですね!でもどうやって……」
「こうやって――」
夏樹は雪夜のかき氷にイチゴシロップをかけ、半分に切ったイチゴの果実を盛りつけ、その上からベリーソースと練乳をかけた。
「わぁ~!イチゴ祭りだ~!」
器が小さいのであまり盛れなかったが、それでも雪夜は嬉しそうに「食べるのがもったいないですね!」と笑った。
はい、うちの子可愛い!!最高です!!
***
ともだちにシェアしよう!