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SS4【かき氷パーティー(後篇)】
みんながかき氷を半分ほど食べ終わったところで、浩二がみんなに声をかけた。
「そろそろいいか。雪ちゃん、写真撮ろうぜ~」
「え!?ど、どうしよう……俺もうほとんど食べちゃった……」
雪夜が焦った顔で自分の手元を見た。
みんなよりも量が少ないので、雪夜はもうほとんど食べ終わっていた。
「あ~いいのいいの。かき氷と一緒に撮った写真はもういっぱい撮ってあるからね~!」
裕也が携帯を軽く振った。
雪夜のためのかき氷パーティーなのだから、写真を撮っていないわけがない。
しかもイチゴミルクを頬張る雪夜という“可愛いの二乗”を兄さん連中がスルーできるわけもなく……食べる前も、食べているところも、みんなこれでもかといっぱい撮りまくっていた。
「ほらほら雪ちゃん、おいでおいで~!みんなで撮ろう!あ、かき氷は置いてきてね~!」
「え?は、はい!」
言われるままに器を置いて兄さん連中の輪の中に入る。
「佐々木 たちも来いよ」
「は~い!」
佐々木と相川も器を置いて素直に兄さん連中の輪に入った。
兄さん連中にはいちいち口答えせずにさっさと従うに限る。
何気に長い付き合いになっているので、二人もよくわかっている。
夏樹にはいろいろと文句を言って来るけれども!!
まぁそれにこういう時に兄さんたちが企んでいるのは大抵……雪夜を楽しませるためだからな。
「それじゃ雪ちゃん、カメラに向かって、べ~!って舌出してね!」
「え!?舌ですか!?」
「3、2、1、はい!」
「べ、べぇ~!?」
雪夜は裕也の勢いに押されて、わけがわからないままみんなと一緒に舌を出した。
力 み過ぎて目を思いっきり閉じてしまっている雪夜が可愛くて夏樹も二枚目以降は裕也の隣に移動してさりげなく雪夜だけを連写した。
「なっちゃん、連写って……」
裕也がやや引いていたが、そういう裕也も今日だけで容量がいっぱいになるくらい写真や動画を撮っているので似たようなものだ。
「雪夜、目を開けて周りを見てごらん?」
「ふぇ?……え……あれ!?みんな舌が……え、なんで!?すすすごい色してるよ!?どうしたんですか!?」
夏樹の声に恐る恐る目を開けた雪夜は、周りの兄さんたちがニコニコしながら雪夜に向かって舌を出していることにちょっと困惑していたが、みんなの舌の色が変わっていることに気付くとびっくりした顔でパチパチと瞬きを繰り返した。
「これはね~、シロップの色なんだよ~!」
裕也が緑色に染まった舌をべ~っと出した。
「え!?かき氷の!?」
「スゴイ色でしょ?」
「す、すごいですね……あ!じゃあもしかして俺の舌も色がついてるんですか!?」
「雪ちゃんはイチゴだったから赤くなってるよ。まぁ、赤はあんまりわからないけどね~」
そう言いながら、裕也が雪夜にさっき撮った写真を見せた。
「わ~!ホントだ、いつもより赤い!えっと、裕也さんの緑色はメロン?浩二さんの青色は?」
「俺のはブルーハワイだぞ~」
「こ、これが噂の!?」
「はいはい、近すぎだよ~」
なにが噂になっているのかわからないが、雪夜が真剣な顔で浩二の舌を眺めていたので夏樹は苦笑しながらくるりと雪夜の身体の向きを変えて浩二から引き離した。
「夏樹さん、もしかして……さっき夏樹さんが言ってたのって……」
「ん~?あぁ、そうだよ。だから言ったでしょ?食べてみればわかるよって」
「なるほど~!」
「雪ちゃん俺も見て~!」
「あ!相川の舌は紫色だ~!佐々木は?」
「俺も緑色だな」
「あ、そうか。抹茶だもんね!」
雪夜はしばらく楽しそうにみんなと舌の見せあいをしていた。
***
「夏樹さ~ん!何してるんですか~?」
夏樹がキッチンで熱いコーヒーを用意していると、雪夜がやってきた。
「ん?ずっと氷食べてると口の中が冷たいから、ちょっと口直しに熱いの飲もうかなって。雪夜はココアがいいよね?今ミルク温めてるから待ってね~」
「はい!ところで……夏樹さんの舌は何色ですか~?」
「俺は雪夜と一緒だよ。ちょっと赤くなってるかな?」
「ホントだ!お揃いですね!」
雪夜が俺に舌を見せながらへへっと笑った。
「……うん、美味しそうだよね」
みんながいるから我慢してたのに……そんな可愛い顔で舌を見せて来る雪夜が悪い!
「へ?……夏っ……んんっ!?」
夏樹はにっこり笑うと雪夜を抱き寄せ、みんなから隠すように覆いかぶさって赤く染まった舌を絡め取った。
「ん……っ……ふ、ぁ……っ」
「っ……っと!」
冷えきっていた舌が熱を持ち始めたところで口唇を離すと、雪夜の身体がガクンとずり落ちそうになったので慌てて抱きかかえた。
あれ~?今日はみんながいるから加減したんだけどな……
「雪夜?」
「……ふぇ?」
「ふふ、大丈夫?ごちそうさま!」
「~~~~~っ!!」
雪夜の頬を撫でながら微笑むと、軽く蕩けていた雪夜の顔が一気にイチゴ色に染まった。
ん゛~~~~~!!このままベッドに連れて行ってもい――
ピーピー!
その時、無情にもミルクを温めていたオーブンレンジが鳴った。
「……ココア入れるね」
***
かき氷パーティーは間で食事や熱い飲み物を挟みつつ昼過ぎまで続いた。
雪夜は一日中テンションが高く、いろんなかき氷を堪能していた。
翌日。
雪夜は少しずつとは言え冷たい氷を大量に食べたせいでお腹を壊し、久々にはしゃぎすぎたせいで発熱するというダブルパンチで寝込んだ。
「夏樹さん、かき氷パーティーとっても楽しかったです!あのね……えっと、いろんな味があってね、冷たくて甘くて……あ!それに舌に色がついたのが面白かったです!頭がキーンってなったのはビックリしましたけど……でもそれも楽しかったです!みんながかき氷食べたら頭が痛くなるって言ってたのはあのことだったんですね!」
具合が悪くなったせいでかき氷がトラウマになっていないかと不安だったが、夏樹の心配をよそに雪夜はご機嫌だった。
「うん、そうだね。雪夜が楽しめたなら俺も嬉しいよ」
興奮気味に喋る雪夜に薬を飲ませつつ夏樹は微笑んだ。
「はい!あ……でも結局全部の味は試せなかったです……」
雪夜が悔しそうに顔をしかめた。
兄さん連中からも一口ずつもらっていたので、ほとんどの味を試していたように思うが……
トッピングがいろいろあったから、もっといろんな組み合わせを試したかったということかな?
「じゃあ、またみんなでかき氷パーティーしようね」
「え!?……いいんですか?」
「もちろん!まだ暑い日は続くし……そうだ!どうせなら夏の恒例行事にしようか!兄さんらも絶対喜ぶよ」
「恒例行事……って、毎年!?」
「そうだよ。夏は毎年あるからね!今年試せなかった味はまた来年試せばいいよ」
「はい!わ~い!夏が来るのが楽しみになりますね!……ぅ゛っ」
ベッドの上に立ち上がって元気よく両手を上に伸ばした雪夜は、すぐにお腹を押さえてへたり込んだ。
「あぁほら無理しちゃダメだよ。まだ熱下がってないんだし、お腹も痛いんだから横になってなきゃ!」
「ぅ~~……ふぁ~ぃ……しゅみましぇん……」
泣きべそをかいて横になった雪夜に苦笑しつつ夏樹も一緒に横になる。
雪夜のお腹に手を当てて温めながら背後から軽く抱きしめた。
「うふふ、あったかい……」
「そう?じゃあしばらくこうしてようか――」
***
雪夜にとって楽しい記憶を増やしてあげられたことが嬉しい。
でもかき氷くらいでこんなに喜んでくれるとは……ぶっちゃけ予想外だった。
俺たちにとっては当たり前でも、雪夜にとっての初めてはまだまだいっぱいある。
少しずつでも、楽しい行事を増やしていこう。
雪夜が来年も再来年も……毎年楽しみに出来るように……
そしていつか……みんなでお祭りに出かけよう……ね、雪夜。
***
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