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SS5【ハロウィンパーティー(前篇)】

「な~ちゅしゃ~ん、もぉ~いいかぁ~い!?」  寝室から雪夜が楽しそうに呼びかけて来る。  うん、でもそれって俺が言うセリフなんだけどね?  まぁ、どっちでもいいか! 「もういいよ~!」  さぁ~て、雪夜はどんな衣装を選んだのかな?  夏樹はカメラを構えて、わくわくしながら雪夜が出て来るのを待った。   「っじゃ~~ん!!」 「おっ!……お~……ぇ?」    両手をあげてポーズを決める雪夜を上から下まで高速で三度見した夏樹の手からポロリとカメラが落ちた―― *** 「というわけで、ハロウィンパーティーするよ!」  9月に入ってすぐの日曜日。  雪夜がお昼寝をするなり夏樹をリビングに連れ出した裕也が声高らかに宣言した。 「唐突ですね」 「僕が唐突なのはいつものことでしょ~?」  それもそうか……   「で、今度は何のパーティーでしたっけ?」 「ハロウィンだよ!」 「ハロウィンって……あぁ、仮装するやつですか?でもあれはたしか……10月ですよね?」 「うん、でも雪ちゃんの体調のこともあるから、早めに言っておいた方がいいかと思って!」 「あ、はい。そうですね……」  そりゃまぁ、早めにわかっている方が助かるけれども……一ヶ月も前に言うのはさすがに早すぎじゃないか?  なんだかイヤな予感しかしない…… 「あ、もちろん、仮装するからね!」  ほら来た!!……って、んん!? 「待ってください、!?雪夜だけじゃなくて!?」 「当たり前でしょ~?クリスマスの時と一緒だよ~!みんなで仮装して「trick or treat!」って言ってお菓子の取り合いしなきゃ!で、その後はみんなでかぼちゃを投げあって、かぼちゃを割らずに死守したら勝ちでしょ?」  ん?ハロウィンってそういう行事だっけ?何か違う気がするんですが……  これは……ツッコんだら負けだな!スルーしよう! 「……っていうか、なっちゃんってば、雪ちゃんには仮装させる気だったんだね」 「え?まぁ……それは……」  雪夜が仮装したら可愛いに決まってるし?    夏樹の頭の中に、この時期に街中でよく見かけるハロウィンのコスプレ衣装がいくつか浮かんだ。  おっと、みんながいるんだからあまり肌を露出させるようなのはダメだな……それは二人っきりの時に着てもらうとして……となると、あとは……やっぱり王道のかぼちゃか? 「お~い、なっちゃ~ん!帰っておいで~!」 「……あ、すみません。ちょっと雪夜がかぼちゃナースで……」 「なっちゃん何言ってんの……?」  裕也の視線が痛い…… 「ナンデモナイデス、スミマセン!」  裕也は真顔で謝る夏樹に大袈裟に肩を竦めると、   「とにかく!なっちゃんたちにも仮装してもらうよ!あ、心配しなくても衣装はちゃ~んと僕が用意してあげるからね!!なっちゃんはいつも通り、いっちゃんたちと一緒に料理担当ね!」 「ええっ!?裕也さんが用意するって……あの、俺は適当に仮装するので大丈夫で……」 「ぼ~く~が!!用意しておくから!!ね!?」 「……ハイ……」  裕也の圧に負けた夏樹は、苦笑いをするしかなかった。 ***  だいぶ落ち着いてきたとはいえ、雪夜の精神年齢は未だに日によって多少変化する。  そのため、裕也は何日間かに渡って雪夜から聞き取り調査をしていた。   「雪ちゃんは、何になりたい?」 「なぁに?」 「雪ちゃんの好きなものに変身するんだよ」 「しゅち?」 「うん、雪ちゃんは何が好き?」 「なちゅしゃん!」 「ん?」 「ゆちくん、なちゅしゃん!しゅち!」 「うん、そうだね~!はい、他には?」 「えっと……」 「ちょっと、裕也さん!?俺の扱いひどくないっすか!?」  少し離れた場所から様子を窺っていた夏樹は、雪夜の可愛い告白に悶絶しつつも裕也に抗議をした。 「なっちゃん、今大事なお話してるんだから静かに!」 「ふぇ~い……」  裕也にマジトーンで叱られて、渋々口を閉じる。  雪夜が夏樹と裕也の様子を心配そうに見ていたのでにっこり笑いかけて手を振ると、雪夜がほっとしたように笑ってブンブンと手を振り返して来た。  うん、可愛い! 「雪ちゃん、他に好きなものはない?食べ物とかでもいいよ?」 「う~んと、ぷりん!」 「あ~いいね!可愛いかも!他には?動物とか~――……」  というやり取りがあって、裕也は雪夜が言った好きなものの衣装を出来る範囲で全部用意したらしい…… ***

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